這い上がってくる声

数年前の夜のこと。
布団に入ってじっとしていたら外から声が聞こえてきたんだよね。外は駐車場なんだけどね。そこから男性の声が聞こえるの。声の感じからして恐らく中年。低い声でブツブツ何かを話しているのね、ずっと。こんな夜遅くに帰ってきてお疲れ様ですと心の中で思っていると、何か違和感を覚えたんだ。何が変ってその男性の声しか聞こえてこないんだよ。もしかして変な人なのかな。でも電話しているのかもしれないし。
だけど外の声ってかなり響くから、電話するなら車の中とか家に入ってから掛けるとかすればいいのになと思った。と言っても今は夜中だし、電話を掛けている相手にも迷惑だから何なんだろうあの人って考えていたら、急に男性の声が上がってきた。

何を言っているのか分かりにくくてごめん。
私の部屋は五階にあるんだけど、男性の声が下から上に這い上がるようにして聞こえてきたんだよね。つまり声だけが下から上へと移動している感じ。
やがてあの低い声は私の部屋を通りすぎていった。そしてだんだん声が遠くなっていったの。

もう何が起こっているのかよく分からなかった。あの声が、私の部屋の窓の外から間近に聞こえてきた時は心臓が飛び跳ねるかと思ったよ。その瞬間は声も大きく聞こえてマジびびった。

直感した。あれは生きている人ではない。
男性は何を言っているのかさっぱり分からなかったし。
きっと肉体がないから上へ上れるなんてお茶の子さいさいだったんだろうな。
あれ以来、男性の声を聞くことはなかった。