【short_54】窓際の係長
投稿者:kana (210)
私の配属された部署には、何をやっているのかわからない係長さんが一人いた。
彼はひとり離れた窓際の席にポツンとたたずんでいた。
お茶を飲んではただ本を読んだり、何かを書いていたりした。
そして時折窓の方を見ては微笑んだりしている。
ある時、部で飲み会があった時に、それとなく部長にあの係長の事を聞いてみた。
最初は頑なにクチを閉ざしていたものの、3次会で人もまばらになった場末のスナックで
やっと重たいクチを開いてくれた。
「もう何年も前のこと。女性社員が窓から飛び降りて自殺した。それ以来会社で頻繁に霊が目撃されるようになり、会社も不運がつづいた。あの係長は仕事はできないやつだが、唯一彼女の相談相手で、今もああして死んだ彼女をなだめる役目を仰せつかっている。・・・彼女は、今係長が座っているあの窓辺から飛び降りたんだよ」
そんな話を聞いた。
そう言えば、係長のいる窓の下には小さな祠と鳥居のようなものがある。
アレはそういう意味だったのか。
「オレのせいかもしれんのよなぁ・・・」
「え?」
「オレが厳しくし過ぎたせいで、彼女死んじまったのかもなぁ・・・って」
「そうなんですか・・・」
「オレも時々耐えられなくなって、いっそあの窓から飛び降りて死のうかと思う事だってあるんだよ!・・・でもなぁ、あそこに係長がいるからなぁ・・・アイツがいると慰められるって言うか、思いとどまれるんだよ、なぜか・・・」
「じゃあ、あの係長には感謝ですね。仕事はできなくても、係長のおかげでみんなうまくやっていけるんですからネ」
「そうなんだよぉぉぉ~アイツ・・・係長だけど、アイツがウチの社を守ってんだよ~」
「世の中には不思議な人もいるもんですねぇ・・・」
そんな係長は、今日も窓の外を眺めて微笑んでいる。
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