まじない奇譚
投稿者:竹倉 (9)
「あなた、あなた。明日の正午過ぎに我が家にも赤紙が届きます。差し出がましいとは思いましたが、あなた様が出兵した後、私は娘二人を養っていかなければなりませんから、先だって銀行員の仕事に応募して参りました。」
と。
「それを聞いた父はひとこと『そうか』と答えたの。おかしい、でしよう?」
Eさんは笑って付け加えました。
「何がおかしいかって、赤紙がなぜ翌日に届くことが分かっていたのかしら。父もね、母の言葉にすぐさま納得をしていたようだったし。」
当時中学生だった私でも、考えてみれば少し引っかかる部分はありました。
まるで……まるで予知能力のよう、だと。
…ん?
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「確かに母は少し不思議な力を持っていたわ。今考えれば思い当たるフシもたくさんあるもの。」
私の心を見透かしたかのようにEさんは答えました。イタズラっ子のような笑みを浮かべながら。
「あなたは千人針をご存知かしら?」
千人針。知識では知っていましたが実際はどのようなものであったのかはわかりません。
「出兵する兵隊さんの無事を祈ってね、私達千人の女が赤い糸で一針ずつサラシなんかに縫い玉を作るの。」
「その時にね、五銭硬貨を一緒に縫い付ければ弾丸があたっても貫通しないのじゃないかって。」
何やら悲しいけれど素敵な風習なのだと感じました。
Eさんのお母様もきっとお父様に手渡したのだろうと私は心のなかで思ったのですが…
「それがね、母は父に千人針は渡さなかったのよ。」
先程以上に楽しそうな笑みを浮かべるEさん。
何か肩透かしを食らった気分でした。
「その代わりにね、清酒で墨を磨ってね、和紙に『サムハラサムハラ』と書いた物をお守りに入れて渡していたの。」
サムハラ?
「私は当時、どうしても父に千人針を贈りたくて、泣いて母に懇願したものよ。一体そんな御守がなんの役に立つのかって。駄々をこねる私の頭を困ったような顔で撫でてくれたのが他でもない父だったわけね。」
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怖い話、というよりも本当に素敵お話、情景描写で引き込まれました。また楽しみにしております。
とても、不思議。
時代背景とか、引き込まれる感じ。
久しぶりに、不思議で素敵な話しでした。
美しい。
とても素敵なお話でした。
わかりやすい話し方で、すぐEさんの世界観に引き込まれました。
唱えている呪文は密教のマントラですね。
真言宗のお寺の家系なのでしょうか。
世界観に引き込まれました。
この手の話はとっても興味あります。
そして見えない世界の大きさも
信じれますね。信じる人は救われます🙏
m.yより
おもすろい。
m.yより
って上のコメントで書いてる人、自分が有名人って勘違いしてておもろい
怖くないけど、好きです。
不思議な話は必ずしも怖いとは限らないのですね。当時中学生の書き手さんの行動力にも感服します。意図せずさわやかな気持ちになれました。
サムハラ?
サムハラ神社てのが岡山にあるな。サンスクリット系の言葉から来てるのかもな
オンマシリソワカとかは真言だからこと不思議でもない。
生まれ月によって守り御本尊があったり、そこ言葉があるし、地蔵様へもあるからよくあること。
気になるなら調べたらいい。
オカルトは知らんが昔の修行者や武術家なら当たり前の世界でもある。
五問銭は死線を越えるっつって四銭より上だから戦中はよくある願掛けだ。
カラス銭だったか。