ニンジン

そこにはまだ警察のキープアウトのテープが張られているのだが、子供らはそこに向かって走って行く。思わずぎょっとして、我が目を疑った。

そのキープアウトのラインの内側、つまり昨日死体が横たわっていたその場所に、あのお化けニンジンが植えられているのである。いや、あれは仏間に置いていたはず。やつは自分で歩いてまた元の場所に自ら埋まったのだ。

子供らは、その珍しい巨大なお化けニンジンにまっしぐらで走って行った。

「これ、戻ってきんさい!!　そっちはダメじゃ!!」

昨日の四人はあのニンジンを掘り起こした状態で死んでいた。つまり、アレを掘り起こしてはいけない。目覚めさせてはいけないのだと、直感的にそう思った。

収穫していたオクラを放り投げ、子供らの方へ走って行く。
だが、体はもう走れるような歳ではない。叫んだところで肺活量もなく大声は出ない。
婆さんはとにかく必死で子供らを止めようと動いた。
一気に心臓の鼓動が早くなり、血圧が高くなる。

「でっけぇぇぇ」「でっかーい」子供らの声がする。

子供らがお化けニンジンの葉に触れている。
昨日一度引き抜かれたニンジンである。
今日なら多分、土も柔らかくなっていて、子供の力でも簡単に引き抜けるだろう。

見ると、子供らはニンジンの葉を引っ張り出していた。
婆さんは血圧のせいで呼吸も荒くなり、足も止まった。
「戻れ、戻って来い!!」叫ぶが声は届かない。

「おばあちゃん、どうしたんですか?」

突然、嫁が声をかけてきた。

「あぁぁ、嫁子さん、アレ、孫らがあそこに入って!!」と指さす。

「あっ!!」キープアウトのラインの中、大きな葉をひっぱってイタズラしている我が子を見て嫁が激怒した「こらぁぁぁぁ!!なにやってんの!! さっさとこっちに戻ってきなさい!!整列!!」

嫁の怒号が飛ぶ。それを聞いた子供らはニンジンの葉をほっぽり出して、一目散に母親の前に駆け寄る。・・・よく躾けられているようだ。

一難去って婆さんはその場にへたりこんだ。

・・・・・・

朝飯を食べたあと、婆ちゃんはボクらに帰れと言ってきた。
あんな事件のあった後だし、体の具合も悪いと。
じゃあ病院行くか?看病するから寝るか?・・・と言ってもガンとして聞かず、とにかく帰れという。
仕方ない。予定変更とはなるが、早々に退散することにした。

クルマに乗り込み、帰り支度をしていると、婆ちゃんがやかんを持って畑に入って行った。
湯気が出ている。熱湯の入ったやかんのようだ。