【魂】と【円形脱毛症】
投稿者:ねこじろう (147)
Fさんは一時かなり危険な状態になったそうなのですが、住田さんらの必死の救命措置及びその後の適切な手術により、なんとか一命は取り留めることが出来たそうです。
「Fさんが最初に病院に運び込まれたのは、深夜2時過ぎでした。
そして全ての処置と治療が終わり、彼が個室に運ばれた時には既に窓際ベッドのカーテンから柔らかい陽光が射し込んでいました。
私はその光景を見ると、ホッと一息ついたのです」
住田さんはここで一旦話を止めると一度大きなため息をつき、再び語り始めました。
※※※※※※※※※※
「ここまででしたら若い命が救われた単なる美談で終わるのですが、これから話す内容が未だに不思議で全く私の理解を越えたものなんです。
Fさんはまだ二十歳と若い身体ということもあり経過は大まか良好で、2日目くらいからは正常に会話が出来るようになってました。
そしてそれは3日めの朝検診の時でした。
血圧、酸素濃度など必要事項のチェックを終えたくらいに、Fさんがこんなことを話しだしたんです。
『先生、ぼく、あの時、おかしなところにいたんです』
あの時というのは、彼が集中治療室で救命措置を受けていた最中のことだと思います。
『おかしなところというのは?』と私が尋ねると、
『多分、天井の辺り』と答えました。
意味の分からない私は再び『天井の辺り?』と聞き返します。
するとFさんは
『はい、治療室の天井の辺りをフワフワ漂っていたんです』と相変わらず真剣な表情で言います。
私は彼の言うことがにわかには信じられず、
『いやいや、そんなことあり得ないでしょう。
だって貴方はその時、酷い負傷で診察台の上に寝ていたんですから』と言いました。
すると彼は真顔で首を横に振ると、
『いえ間違いなくぼくはあの時、診察台真上の天井辺りを漂っていたんです。
だって台の上に横たわる負傷した自分の姿が見えてましたし、その周囲で懸命に救命措置をしている看護師さんやお医者さんの姿もはっきり見えていたからです』と言います。
この段階では未だ私は、Fさんの言っていることを信用しておりませんでした。
もちろん彼が私を驚かそうと思って嘘を言っているなどとは思いませんでした。
というのは、その時の彼の表情は真剣そのものでしたから。
ただもしかしたら彼はあの時聴覚だけは働いていて、その限られた情報から彼の脳が勝手にイメージを作り出し、それを現実のものと勘違いしていたのかもしれない。
そう思った私はFさんにまた質問します。
『じゃあ、あの時、治療室にいた面子は誰と誰でした?』
彼はしばらく遠いところを見るような顔をしながら、
『ええっと青い制服姿の女性看護師さんが二人、
それと白衣のお医者さんが二人、
そのうち一人は先生でした。
ですから確か四名だったと思います』と答えました。
当たってました。
私は軽くショックを受けましたが、ただこれは後からでもある程度推測出来る範囲の内容のものでしたから、未だ半信半疑でした。
それで私が『他には?』とさらに尋ねると、Fさんはその時の診察台付近の光景などを答えましたが、これも後から推測出来る範囲のものでしたから、恐らくあの時彼は昏睡状態でありながら、現実と類似した幻覚みたいなものを見ていたのでは?と結論付けました。
だが最後に彼がぽろりと言った次の言葉が、一気に私の心を揺り動かしたんです。
『先生、ぼくの友人もここにハゲがありますよ』
唐突にFさんはそう言うと、自分の頭頂部辺りを指差したんです。
怪訝な顔をする私の顔をじっと見ながら、彼は続けます。
『円形脱毛症というやつでしょ?
あの時天井から見てましたから、はっきり分かりましたよ。
不規則な生活習慣やストレスからなるそうですね。
僕ね介護職員してるんですけど、僕らの仕事もなかなか大変で、同僚の職員で同じようなハゲを作ってる奴いるんですよ。
あの時天井にいた僕は、ああ、やはり病院の先生も大変なんだなあと思っていたんです』
そう言うと、彼は気の毒そうな顔で私の顔を見ます。
幽体離脱は今際の際や昏睡状態時に良くあると聞きますね
脳の機能が停止したら無になる。確かに。
でも、幽体離脱の時は脳が機能していると言う事ですよね。
よく、三途の川の話をされますがそれは夢であって、今回の話は夢では無かった事が証明された一例ですね。
⬆️皆様、コメントありがとうございます。
ねこじろう
あれ?
タイトル変わりました??
すみません、初めのはあまりにアッサリしてて、変えました(笑)
─ねこじろう