アパートの扉の前に来ると、
そこからでも聞こえるくらいにモスキート音が強くなっていた。
ドアノブを回すと、ドアは開いていた。
中から鼻がもげるくらいの異臭がした。
Sは、生きていた。
ガリガリで、頭も禿げ上がり、何故か全裸で、
よだれと涙をだらだらと垂らしながら、
必死に何か呪詛のようなものを唱え続けていた。
恐らく英語だと思う。
月のような変な形の首飾りをして、
数珠のようなブレスレットを着けて、
布に巻かれた何かを抱えていた。
リビングにあったギターやキーボードが無造作に部屋の隅に置かれ、
家具や機材もキッチンに投げ捨てられていた。
すっからかんになったリビングには、赤い絵の具のようなもので、
俗にいう魔法陣みたいなものが描かれていた。
その魔法陣の中央に、可愛がっていたはずの飼い猫の頭部が置かれていた。
円周上にはバラバラになった猫の体が散りばめられていた。
蛆や蠅が大量にたかっている。
Sは猫の頭に対して、呪詛を唱え続けていた。
「S!!!!!!!」
Kが怒鳴り、Sの頬を引っ叩いた。
Sははっとした顔をして、俺たちを睨んだ。
むくりと立ち上がり、聞いてもいないのに、
例の海外の宗教の良さについて語りだした。
宗教というか、悪魔を信仰する邪教だったんだが。
しきりに”魔王シューエルド様”って連呼してた。
シューエルド様から神託を得れば何でも手に入る、曲も良くなる。
憑依されればもっと幸せな世界が待ってる。
なんて言いながら気味の悪い笑みを浮かべていた。

























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