悪魔とミュージシャン
投稿者:イエティ (51)
アパートの扉の前に来ると、
そこからでも聞こえるくらいにモスキート音が強くなっていた。
ドアノブを回すと、ドアは開いていた。
中から鼻がもげるくらいの異臭がした。
Sは、生きていた。
ガリガリで、頭も禿げ上がり、何故か全裸で、
よだれと涙をだらだらと垂らしながら、
必死に何か呪詛のようなものを唱え続けていた。
恐らく英語だと思う。
月のような変な形の首飾りをして、
数珠のようなブレスレットを着けて、
布に巻かれた何かを抱えていた。
リビングにあったギターやキーボードが無造作に部屋の隅に置かれ、
家具や機材もキッチンに投げ捨てられていた。
すっからかんになったリビングには、赤い絵の具のようなもので、
俗にいう魔法陣みたいなものが描かれていた。
その魔法陣の中央に、可愛がっていたはずの飼い猫の頭部が置かれていた。
円周上にはバラバラになった猫の体が散りばめられていた。
蛆や蠅が大量にたかっている。
Sは猫の頭に対して、呪詛を唱え続けていた。
「S!!!!!!!」
Kが怒鳴り、Sの頬を引っ叩いた。
Sははっとした顔をして、俺たちを睨んだ。
むくりと立ち上がり、聞いてもいないのに、
例の海外の宗教の良さについて語りだした。
宗教というか、悪魔を信仰する邪教だったんだが。
しきりに”魔王シューエルド様”って連呼してた。
シューエルド様から神託を得れば何でも手に入る、曲も良くなる。
憑依されればもっと幸せな世界が待ってる。
なんて言いながら気味の悪い笑みを浮かべていた。
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