肝の据わった男
投稿者:take (96)
友人のEから聞いた話です。
数年ほど前、仕事の出張で地方のビジネスホテルに宿泊しました。
そのホテルはかなり古く、フロントも廊下もどんよりと薄暗く、陰気な雰囲気でした。
部屋のキーを受け取って、エレベーターで部屋の前に着くと、さらに嫌な雰囲気が強まったのです。
まずいな、と思いつつ部屋に入ると、なんというのか、とても辛気臭いのです。
Eは、やれやれまたかと溜息をつきました。
Eには霊感めいたものがあり、そのテのものに反応してしまうことがあるのです。
しかし、それほど強い霊感ではないのか、なんとなく感じるだけで、体調が悪くなったり、見てしまったりということはありません。
どうせひと晩だけの辛抱だと思い、気にせずに、明日の取引先との打ち合わせに使う書類などを確認していると、嫌な臭いが鼻をつきました。
澱んだ水が腐っているような臭いです。
ユニットバスを確認してみましたが、もちろん水など溜まっておらず、トイレや排水溝も調べても、臭いの元は判明しません。
そのうち、臭いが消えたので、また書類と向き合いました。
食事は近くの定食屋で済ませ、帰ってくると、サアアア……と水音がしていました。
シャワーの水が出しっぱなしになっていたのです。
もちろん、Eはこの部屋にチェックインしてからシャワーなど使っていません。
勘弁してくれよと思いつつ、水を止めました。
寝る前にシャワーを浴びていると、部屋の中を誰かが歩き回っている気配がします。
浴室から顔を出しても、部屋に人がいる様子はありません。
うぜえなあ、と思いつつシャワーを浴び終えました。
夜寝ていると、金縛りにかかり、ベッドの側に誰かが立っている様子です。
しかし、その姿は見えず、それ以上のことはなさそうです。
めんどくせえなあ、と思いつつ、睡魔に任せて眠りました。
朝、俯いて顔を洗っていると、人の気配を感じました。
顔を洗いながら目だけを動かすと、Eの背後から長い黒髪が垂れ下がっているのがみえました。彼の後頭部に髪の長い女が、顔をぴったりと密着させているような感じです。
体を起こして鏡を見ましたが、もちろん背後には誰もいません。
いい加減にしてくれよ、と思いつつ洗面所を出ました。
部屋を出て離れていくにつれて、澱んだ空気が薄れていきます。
ホテルを出ると、陰気な雰囲気もすっかり消え去っていました。
滞りなく得意先との打ち合わせを終え、会社に戻って報告を済ませて帰宅しました。
「Eは度胸あるなあ」
その話を聞いた私が感心して言うと、
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