首吊り林
投稿者:煙巻 (8)
「おーい、誰かいますかー?」
Aは声を上げて周囲に人が居ないか確かめた。
もしこれから自殺するつもりの人間が居たら一応引き止めるくらいはしようと結論を出したんだが、俺だったらこんな夜更けに知らない男四人組と遭遇したら絶対に姿を現さないだろうなと思ってた。
案の定、声を掛けながら雑木林の中を散策するが人の気配どころか動物にも遭遇しない。
「やっぱただ大きめの木の枝が落ちただけじゃね?」
Cがそろそろ飽きたようにそう言うと、Aは「かもなあ」とつまらなそうに納得する。
それで、もうちょっと奥の方まで散策してみようと気を取り直した所、突然何処からか『すみませーん』と掠れたような女性の声が聞こえた。
突然すぎて四人ともビクっと驚いたが、すぐにAが「やっぱ誰か居たんだって」と嬉々としてはにかんだ。
そりゃ非日常感たっぷりでテンションは上がるが、こんな夜更けの雑木林にいるような女性が果たして正気の人間だと思うか?と俺は内心悲観的に構えていたが、Aは何も考えずに「聞こえまーす!」と声を張り上げて応えた。
「可愛かったらどうしよ」
Aはウキウキしてそんな事を言ってたが、BとCは「いや、自殺志願者とかだったらメンヘラかもよ」と苦笑してた。
ぶっちゃけ幽霊とか死体よりも、メンヘラと遭遇した方が怖い気もすると俺は思ったが、Aが先々と女性の声が聞こえた方に進むものだから俺達は渋々後をついて行った。
『すみませーん』
掠れた女性の声は随分と近くなってきた。
足元の枯葉をザッザッと踏み抜いて進む度に夜の帳が色濃くなって重圧をかけてくる、そんな気味の悪い気分に陥った俺は「やっぱ引き返さねえ?」と提案するが三人は「何、ビビった?」とニヤニヤして振り返る。
怖いというより気持ち悪いのだが、俺はビビりのレッテルだけは回避したくて「んなわけねえだろ」と強がり、吐き気を我慢しながら三人についていく。
だが、やっぱり何かがおかしくて俺は周囲を見回した。
『すみませーん』
女性の声はだんだんとハッキリと聞こえているのだが、どうしても女性を見つける事ができないのだ。
「いねえな」
「マジでどっから声がしてんだ?」
A達も何かおかしい事に気付き始めたのか、少し口調が乱れてくる。
それで結局女性の姿は見つからずに、俺達は一カ所に集まって周囲を懐中電灯で照らしてみるのだが、似たような木々や茂みと足場を彩る枯葉しか見当たらない。
何処かで蹲って助けを求めているのか?とも考え、人が隠れられそうな太めの木の裏側とかを確認しても誰も居なかった。
だが、俺達全員声は聞こえているのだから間違いなく近くに女性は居る筈なのだ。
「もしかして出てきづらいんじゃね?俺達四人だし、向こうは女だろ?」
Bの意見に俺達はちょっと納得した。
何かあって動けない状態ではあるが、いざ人の気配を感じて助けを呼んだら男四人組もしくは複数人と知って姿を現すのに躊躇っているのかもしれない。
世の中は物騒だから、女性としては警戒するのは当たり前か。
面白かった!!