家の前に立つモノ
投稿者:take (96)
短編
2023/03/06
12:14
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私が中学生の時の話です。
通学途中にある家の前に、黒い靄のようなものがあるのに気づきました。
最初は薄くてほとんど見えないくらいだったのですが、だんだんと濃くなっていって、
ぼんやりとした人の形のようになり、リーン、リーン、と鈴の音のようなものも聞こえ始めました。
あまり良さそうなものじゃないなあ、と思いつつ、無視を決め込んでいたのですが、
ある日妹が、
「ねえ兄ちゃん、学校に行く途中の家の前でなんか見えてない?」
と、訊いてきました。
中学校と小学校は逆方向になるので、小学生の妹はその家の前を普段は通らないのですが、
友達の家に遊びに行くときに、たまたま通りかかったらしいのです。
「うん、なんか黒い靄みたいなのだろ、鈴の音も聞こえるよ」
「ああ、そうなんだ……あれ、お坊さんだよ、笠かぶって鈴みたいなの鳴らして、あと、お茶碗? みたいなの持ってるよ」
私と妹は『霊感体質』ですが、妹の方がその力は上です。
私には黒い靄にしか見えなかったのですが、どうやら話を聞く限り、妹には托鉢僧に見えていたようです。
「なんなんだろうなあ……」
「さあ?」
その一ヶ月後、その家のお爺さんが亡くなり、それからは黒い靄を見かけなくなりました。
私と妹に見えていたものは『死神』だったのかもしれません。
死神はいろんな姿をしていると聞きますが、お坊さんの姿をした死神もいるんだなあ、と思い知った出来事でした。
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