肉体と魂
投稿者:林檎酢 (2)
もう10年程前になります。大好きだった祖母の葬儀が終わり、祖父母の家にみんなで集まり、休んでいた時の話です。
親族の少ない我が家では身内のみの小さな葬式となりました。
闘病の末亡くなった祖母は、もとは明るく活発な性格だったこともあり、葬儀直後の家族も祖母が居た頃の食卓のように、みんな明るく振舞っていました。
家族はそれぞれ自由に過ごし、お酒を飲んだりしていました。晩年の祖母の介護をしてくれていた叔母は、まだ学生だった私と弟に闘病中の祖母のことを教えてくれていました。
祖母の思い出の品や、好きだった食べ物、口癖などです。
ふと、祖母が使っていたマッサージチェアについて気になったので、聞いてみました。
叔母曰く、もうずっと前に壊れてしまい、動かないとのこと。弟はマッサージチェアに座り、スイッチを押しても動きません。
弟「やっぱり壊れてるね。」
叔母「高かったのに、もったいないわよね。」
そう言うと次は叔母がおもむろにマッサージチェアに座り、スイッチを押しました。
すると、壊れて動かないはずのマッサージチェアが急に動き始めたのです!
叔母はとても驚いていて、私と弟は、本当に壊れていたのか少し懐疑的でしたが、きっとずっと介護をしてくれていた叔母に対して祖母がマッサージチェアを動かして労ってくれたのかもね、と話していました。
すると話をしている私たちの後ろで父が大きな声で「アレ!?」と驚いたような声を上げたのです。
冷蔵庫の前で飲みかけの飲み物を見つめながら驚いている父。
どうしたのかと聞くと、父は、
「さっきまで酒を飲んでたから、コーヒーを飲みたかったんだけど、気が付いたら牛乳を飲んでいた。なんで飲んでいるのかわからない」と。
父が手にしていた牛乳は祖母が大好きだった銘柄の牛乳でした。
晩年の祖母は口から飲み物を飲むことができず、ずっと牛乳を飲みたがっていました。
私が近くに行ってよく確かめようと立ち上がったとき、
「よっこらしょ」
それを聞いていた叔母はまた驚いて、なぜ今その言葉を言ったのか聞かれました。
私は自分の発言をよく覚えておらず、自分でもそんなこと言ったのかと半信半疑でした。
叔母曰く、私が立ち上がる時に言った「よっこらしょ」とは祖母の口癖で、立ち上がる時や座るときに常に口にしていた言葉だったそうです。
その場の空気が温かい空気に変わるのを、その場にいた全員が感じました。
人は亡くなったあと、体から魂が抜け出て、しばらくは生前と変わらない様子で過ごすと聞いたことがあります。
その時は肉体の痛みや重みなどもなくなり、全快の状態だということを聞いたことがあります。
もしかして火葬を終えた後から、祖母は元気な状態で私たちと最後のひと時を楽しんで過ごしてくれていたのかもしてません。
温かみのあるお話でした