ギャグ漫画家
投稿者:とくのしん (65)
1年近く経過した頃、開示請求について弁護士から進展があったことを伝えられました。ようやくSNSのカキコミについて、犯人が特定できたのです。私はその結果を伝えるべく先生に出版社までお越しいただきました。先生の連載は例の件があって以降、人気がガタ落ちしましたが、掲載順は巻末になりながらも連載を続けていました。それもあって先生は幾分落ち着きがあるというか、以前のような張り詰めた様子はありませんでした。
弁護士、編集長、そして担当の私と先生の四人が本社の会議室に集まりました。弁護士から今回の開示請求についての説明がなされます。
「開示請求により、S先生のSNSを荒らしていた犯人が特定されました。ただ・・・なんと申していいか・・・」
弁護士は言葉を濁し、編集長と私に視線を移します。編集長が弁護士に無言で頷きました。
一度咳払いをした後、弁護士が話を続けました。
「開示請求の結果、S先生のSNSを荒らしていたのは・・・S先生あなた本人という結果でした」
その言葉を受けS先生は一度大きく目を見開き、深くため息をつきました。
「どういうことですか先生?話してくれませんか?」
編集長が落ち着いた様子で先生に尋ねました。
先生は下を向いたまましばし無言を貫きました。そして下を向いたまま話し始めました。
「やっぱり・・・僕だったんですね」
「先生、それはどういう・・・?」
「カキコミの内容見て、僕しか知らないようなことがたくさん書かれていたのを見てもしかしてとは思ったんです」
先生は淡々と話しを続けます。
「実は最初の連載がアニメ化した頃ですかね、幻聴が聴こえるようになったんです。
“作品がつまらない”、”面白くないから止めろ”という声でした。あまりに続くものだから心療内科に行った。そしたらストレスが原因だろうと安定剤を処方されました。しかし、飲んでもよくならない。その声が段々と大きくなっていく・・・限界でした。人気のあるうちに終わらせたいと編集部に申し出ましたが、実はその声に屈したんです」
先生は俯きながら話を続けました。
「でも僕には漫画しかない。ジャンルを変えて描けば声が消えるとそう思っていました。そこで昔から考えていた冒険活劇を無理を言って描かせていただきました。それと同時にSNSを始めたらその声はぴたりと止んだんです。でも声が文字に変わっただけでした。
“設定が古臭い”
“王道すぎて何の捻りもない”
これは僕自身も薄々感じていたことです。人気が伸び悩んだのは作風が変わったからじゃない。僕の実力不足なんです」
「そんなことは・・・」
「今の連載を始めた頃、こんなカキコミがあったの覚えていますか?
“お前のようなつまらない人間が面白い漫画を描けるわけがない”
“心の底から笑えない人間が人を笑わせるなんて無理に決まっている”
“取柄のないお前には何もない”
これ・・・全部僕が両親に言われ続けてきたことでした」
先生のご両親は共に教師、厳格な家庭だったと言います。
お二人とも先生には教師の道を歩ませたいと幼少の頃から、教育熱心だった。しかし、先生は友達と遊んだときに読んだギャグ漫画が衝撃的だったそうです。いつも親の顔色を伺って生活していた先生は、本気で笑うことなんてほとんどなかった。だからその漫画を読んで思い切り笑ったとき、自分も誰かを笑わせられるような漫画を描いてみたいと心からそう思ったそうです。
しかし、そんな少年の夢を頭ごなしに否定され、前述したようなことを言われたといいます。テストの点が悪かったとき、成績が落ちたとき、事あるごとに言われ続けたそうです。それでも漫画家への夢を諦められなかった先生は、大学を中退し逃げるように親元から離れたと言いました。
悲しいお話・・・と思っていた最後!!一瞬で鳥肌が立ちました
とは言え、漫画好きの私としては、作家先生と編集者さんの二人三脚の大変なお仕事、本当に頭が下がります。
物心ついた頃から色々なジャンルの漫画を読み、漫画から人格が形成されたと言っても過言ではないので、素晴らしい作品を世に生み出してくださり本当に感謝いたしております。
そして先生のご冥福をお祈りいたします。
投稿者が悪くはないですよ。
これ実話として投稿されてます?
実話ならあの人かもってすぐに思い当たる方が一人いらっしゃいますし、創作なら創作で実在してたギャグ漫画家と類似する点が多すぎてそこも怖いです。
ギャグ漫画家ってちょいちょい自殺する人出るんよね
おつかれぇい
10年というのは関係ない人にとっては風化しネタにしてしまうのに十分なほどの長さの時間なんだなぁ。