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意味怖(意味がわかると怖い話)

リュウゼツランさんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

悪い癖
長編 2023/02/15 20:53 7,760view
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玄関とは違い普段然程気にしていない窓の施錠にまで気が回らず、何故ああも安堵なんてできたんだろうと自分の頬を引っぱたきたい衝動は、玄関から一番近く、そして最も侵入に適した居間の窓ガラスに顔を擦りつけている、限界まで口角と頬を吊り上げ目を見開き笑う子供に抜かれた度肝のおかげで、すっかりと消失してしまう。
「ひっ」
が、またもここで幸運に恵まれる。
窓の鍵はしっかりと施錠されていたのだ。

いや、安心はできない。何か道具でも使われたら簡単に破られてしまう。
しかし、不気味な子供は一向に窓をたたき割ろうとはせず、周囲に道具を探す素振りも見せない。
やっと諦めたのか……。
そんな期待をしてしまう僕は手に負えない愚か者で、狂気に満ち満ちた笑顔を絶やさない目の前の少年がそうやすやすと僕を見逃してくれるわけなんてなかった。
彼が目を付けたのは、開け放たれた二階の窓だった。

普通に考えれば二階から侵入を試みるなんてバカバカしいし、よほど手慣れた強盗でもない限りは目を付けない経路のはずだ。
でもこいつは違う。強盗でもなければまともでもないであろうこいつの思考は違った。

そして、これまで幸運が続いていた僕の悪運はここで尽きかけていたことにようやく気付く。気付かされることになる。
庭にある大きな柿の木を剪定するために、二階にも十分達する程の大きな脚立が庭に置かれているのだ。
その存在に気づいた子供は嬉々として、軽やかなステップを踏み脚立を駆け上る。
ここから二階まで行き、奴に先んじて窓を閉めることは不可能だ。
間に合わない。

ではどうするのが正解か。どうすれば無事に生還できるのか。
冷静に考えよう。
そうだ僕は冷静さを欠いていた。

初め、もしかしてあいつは幽霊の類なんじゃないかと恐怖した。あの笑顔といい、あの行動力といい、まともな人間のソレではないと僕は見做した。
しかし、幽霊ならドアや窓をすり抜ける術を持っているかもしれないし、空を飛び二階から侵入することだって十分可能なはずだ。もっと言えば、念じるだけで僕を呪い殺すことだってできるかもしれない。どちらにせよわざわざ脚立なんて使う必要ないだろう。
と、考えるとやつは人間だ。

頭のおかしな人間、まして子供に過ぎない。
身体能力ではこちらが圧倒できるはず。
では力づくで抑えつけてしまえばいいだけでは。

そこまで考えが至り、僕の次なる行動が決定する。
奴と対峙する。そしてこの家から追い出そう。
そこまで明確な心積もりが完了すると、むしろ早く降りてこいとすら思えてしまう僕は実に単純な性格をしているのだろうと思わず苦笑してしまうが、そんな決意と自虐の一人遊びをしている僕の耳に、ギシ、ギシ、とゆっくりと階段を降りてくる足音が聞こえる。
来いよ。お前なんかに負けるか。

「お兄さん。あそぼ」
たっぷりと焦らしながら漸く姿を見せた子供の右手には、乾いた血が大量に付着した包丁が握られていた。
僕は目を見開き口元を大きく歪ませ、実に情けない表情になっていたと思う。
しかし、金縛りにあったみたいに身体は動かず、口もうまく回らない。
「な、なんなんだよ。おまえ、なんなんだよ」
辛うじて、絞り出すようにそう尋ねた僕に子供はこう返した。

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コメント(2)
  • サイコパス男vsサイコパス少年のバトルだったのか、、、、

    2023/11/10/12:15
  • 怖い。。

    2024/02/25/23:59

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