探す男
投稿者:take (96)
数年前に私が体験したことです。
付き合っている彼女と、ショッピングモールに買い物へ行きました。
当時私の住んでいたアパートから、三駅ほどの距離だったので、
陽気のいい季節だし、歩いて行こうか、という話になりました。
ぶらぶら歩いていると、途中に大きな交差点がありました。
すると渡りきったところに花や飲み物などが供えてあったのです。
「ああ、ここで事故があったんだね」
彼女が痛ましげな表情で言います。
私には、信号を渡る前から、その場に二十歳くらいの男性が立っているのが見えていました。
彼は行き交う車を、鋭い目つきで睨みつけていました。
きっと、自分を酷い目に遭わせた車を探しているのでしょう。
私は『霊感体質』で、そういうモノが見えてしまうのです。
気づかぬふうでそこを通り過ぎようとしたときです。
車道を見ていた男性が、次の瞬間には、私たちの目の前に移動してきました。
(まずいな……)
私は喉の奥がキュッと締め付けられるような気がしました。
「なあ、あんた、車を運転していた奴はどうなったんだ、知ってるか」
と、ぶつぶつと呟くように言い始めたのです。
それは私より、彼女に向けて言っているようでした。
さっき、花が供えてあることに反応したためでしょう。
彼女にはまったくその男性が見えていません。
私がスマホを出してネットを見始めると、
「もう、歩きスマホなんかしないでよー」
と、彼女は苦笑しつつ戒めてきます。
私は目当ての記事を見つけると、画面を彼女に向けて、
「さっきの事故、これだよ、犯人はもう捕まってるみたいだね」
と、言いました。
「なに、そんなの検索してたの?」
彼女はちょっと呆れ顔をしました。
男性はしばらく私のスマホを覗き込んでいましたが、ふっとその姿がかき消えました。
(危なかったー……)
私は心の中でホッと胸を撫で下ろしました。
あの事故の記事が見つからなかったら、男性はずっと付きまとっていたかもしれません。
犯人が捕まったから納得して成仏したでしょうか?
見える人って大変なんでしょうが、今回は犯人が捕まった事を伝える判断が凄い。