嫌な電話

一度目の電話があってから、私は、件の先輩、『理香さん』に相談していました。
「そうなんだ、うーん……」

私の話を聞いた理香先輩は、腕を組んで考え込みました。
「すいません、変なこと訊いて」
「いや、いいんだけどさ。非通知拒否ったのはいいと思うよ、相手にしないのがいちばんだから」
そう言って、ちょっと首を傾げました。

「お姉さんの声を真似て、それにきみが返事しちゃったから、もしかしたら向こうは味をしめたかもしれないね」
「え？　無言で切った方が良かったですかね、やっぱり」
「うん、それがベストだけど。でも、最初はそんなのわかんないし、仕方ないよね、ただ……」

先輩は切れ長の目をすこし宙に漂わせてから、
「もし、またかけてきたら、ガツンと言ってやってもいいかもね」
「え？　うぜーからかけてくんな、とか」
「そうだね、しつこいようならそれくらい言ってやってもいいかもしれない……それと、そいつとの関わりはきみだけで完結させておいたほうがいいよ、妹さんも同じ体質なんでしょ？　もし妹さんが関わったら今度は妹さんの方にいくかも」

「わかりました」
「まあ大丈夫だと思うけどねー」
理香先輩はそう言って口角をキュッと上げて笑いました。

「と、まあ、そういうわけだから。おまえも気をつけろ」
「なんなのよ、いまさら。もっと早く言ってよ」

「いや、まさか家電にかけてくるとは思わなかったから」
「ま、いいけどね、別に。非通知なんて最初っから出ないから」
念の為、固定電話も非通知拒否に設定しながら、
「姉ちゃんにも注意しておいたほうがいいかな」
と、私が言うと、
「大丈夫でしょ、お姉ちゃんはまったくのゼロ感だし。だいたい非通知でかかってきた電話なんか出ないよ、女なら常識」
と、妹は笑いました。

その後、そいつから電話がかかってくることは、二度とありませんでした。
姉と妹は今も元気です。