夜の行進
投稿者:take (96)
以前勤めていた会社での話です。
慢性的に人不足で、仕事量が多く、毎日遅くまで残業して、
疲労した重い体を引きずるようにして帰る、そんな毎日でした。
体力的にも精神的にも疲れ切って、いま考えればブラック企業とはいわずとも、それに近いものがありました。
辞めてしまおうか、と思いましたが、大学を出て入社した会社を2年ほどで辞めて、その次に入った会社でした。
それなのにまた辞めてしまっては、『仕事の続かないやつ』と思われてしまうのではないか。
なにより、そんな弱い人間になりたくない、それくらい我慢しろと、自分で自分を律していました。
いつもにも増して仕事が忙しく、毎日終電で帰る、そんな日が続いていた時です。
最寄り駅までの途中に、人通りのあまりない狭い路地を抜けるところがあります。
残業した帰り、いつものようにそこを通り抜けようとしたのですが、
「あれ?」
いつもと違う様子に驚きました。
たくさんの人が、一列になって行進するように静々と歩を進めているのです。
(何事だろう?)
そう思っていると、最後尾の50代くらいのスーツを着た男性が、
「あなたも行きますか?」
と、微笑みながら言います。
「はあ……」
曖昧に返事を返すと、その前に並んでいる30代くらいの水商売風の女性が、
「一緒に来なさいよ、楽しいよ」
と、手招きします。
気づくとその場にいる全員が私を見ていました。
微笑みながら、ニヤニヤ笑いながら、あるいは無表情のまま、
「おいでよ」
「来なさいよ」
「一緒に行きましょう」
と口々に声をかけてきます。
その列はビルの裏手の非常階段へ続いており、一番上に達した者から次々と、空中に身を躍らせていました。
ただ、地面に激突することはなく、その姿は落下する途中で闇に吸い込まれるように消えていきます。
(やばい、呼ばれてる!)
私はその場から駆け出し、夢中で駅まで走り通しました。
お疲れ様です。仰る通りです。
とりあえず助かって良かった。
何だか考えさせられる話でした。