丸刈りが行く
投稿者:YoyoYoyoY (52)
紫陽花がキレイに咲きそろった頃、2年生の教室は廊下側と運動場側の窓を開け放ち
涼しい風が通り抜けていました。
国語の授業は「奥の細道」のあたりで、芭蕉は近しい人たちとの別れを惜しんでいます。
(昔は旅に出ることだって大変だったのよね)
教科書の挿絵を眺め芭蕉の気持ちに寄り添ったりするのでした。
何気なしに、廊下に人の気配を感じた私は視線を移しました。
丸刈り頭が上下に動いています。
(トイレに行く男子生徒かな?)
いや、トイレなら断りを入れて堂々と行けばよいので、こそこそするのはおかしいのです。
(まあいいや)
私は黒板に目を移しました。
翌日、再び丸刈り頭が現れました。
(毎日授業を抜け出してどこに行っているのやら、松尾芭蕉じゃあるまいし)
顔を見てみたいのに、うまく隠れていて見ることが出来ません。
そんなことが1週間ほど続きました。
その日も丸刈りが現れたので、今度は注意深くどこへ行くか確認してやろうと
思いました。
先生は黒板に背を向け、他の生徒は熱心にノートを取っています。
チャンス!とばかりに観察しました。
ところが、丸刈りは右にも左にも行かずにしゃがんでしまいました。
(廊下に座っているのかな)
そのとき、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴りました。
私はサッと立ち上がって廊下に出てみました。
そこには誰も居ません。
不思議に思って前に座る友達に聞いてみました。
「ねえ、ここのところ毎日毎日丸刈り頭の生徒がさあ、授業中に抜け出して
どこかに行ってるみたいなんだけど、気が付いてた?」
すると友達は怪訝な顔をして答えました。
「あんたさあ、うちの学校に丸刈りの生徒なんていないでしょう。
お坊さんじゃあるまいしさあ」
言われてみれば確かにそうです。
そしてそれ以来丸刈りは現れなくなりました。
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