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心霊

リュウゼツランさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

Baby in Car
長編 2023/01/14 23:46 2,931view
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いつもの倍近くの時間をかけ、何事もなく見慣れた近所の家並みの中走っていると、途端にふわりとした感覚が下腹部を突く。
状況が状況の為、短く驚きの声を上げてしまったが、一瞬で冷静さを取り戻し、極度に憶病になっている自分を自嘲しかけたその時、目の前のフロントガラスに汚れがひとつ増えた。
 
ぺた。
 
汚れなんかじゃない。手形だ。
それは何の衝撃もなく、優しくぺたりとつけられた。

眠気なのか恐怖心なのか、今にも気を失いそうな自分を叩き起こすため、ボールペンを太ももに突き刺した。

ダメだ。これはどう考えてもヤバい。
太ももに走る痛みからか、この時の俺は冴えていた。

「あのスタンドだ……」
『だいぶ轢いちゃったみたい』だと、知った風に言っていたあのおっさんが、きっとこの現象が何かを教えてくれるはずだ。
そうだ。あの時だって何かを言おうとしていた。いや、言っていたんだ。

とにかく一刻も早くあのスタンドに行こう。俺はここでアクセルをベタ踏みし、目的地へと急いだ。

辿り着いた俺は開口一番あの店員の所在を問い質したが、例の若い店員が発した言葉は実に無慈悲なものだった。

「うちにはそんな人いませんけど……」

茫然とした。
愕然とした。
俺は唯一頼れると思えた、縋り付きたかった人物に会うことが叶わないことに、涙すら流しかけた。
打ちひしがれた俺はゆっくりと車に戻り、心配する言葉をかけてくれた店員を無視して、ゆっくりと家路につく。

道中、どこからか笑い声が聞こえた。
俺を嘲笑っているんだろう。笑えばいい。間抜けな俺を好きなだけ笑えばいい。
仕事で疲れていたこともあり、何もかもがどうでもよくなりかけたその時、ルームミラーに移る笑い声の正体を見た俺は、目前まで迫ったガードレールに目線を移すことなくアクセルを踏み続ける。
そうだ。
あの時、あの高齢の店員はこう言っていたんだ。

「後部座席の子供、お子さんですか?」

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