廃墟探索で出遭ったもの
投稿者:take (96)
車を停めてあるところまで行き、乗り込む前に、喫煙者は煙草を、そうでない者は缶コーヒー等を飲んで一服しました。
ちょっと離れたところから建物を眺めていると、段々と気分が落ち着いてきて、車に乗り込むころには、軽口を言い、笑い合うほどリラックスしていました。
「なんてことなかったなあ」
「そんなこと言いながらお前、結構ビビッてたじゃん」
「お前こそ、一番先にホテルを出ようとしてただろうが」
車を発進させて口々に言い合っていると、突然、道の側の雑木林から白い人影が飛び出してきました。
慌てて急ブレーキをかけましたが、鈍い衝撃音があり、ボンネットの上を弾んで後方へ飛んでいったのです。
「やっちまった!」
運転していたBがすぐ飛び出していき、友人Aを含めた3人も後に続いて降りたのですが……。
いくら探しても被害者の姿はなく、ボンネットも無傷でした。
「確かにぶつかったよな」
「うん、白い服を着た女に見えたけど」
その後もかなり時間をかけて周囲を探しました。
道を挟んだ雑木林の中を2人1組でライトを照らして探索しつつ、50メートルほど徒歩で後戻りして、左右を交代して確認しつつ、車を置いてあるところまで戻りましたが、被害者の姿は見つからず、車も念入りに調べましたが、人とぶつかった痕跡はまったく見当たりません。
道にブレーキ痕はありますが、血一滴落ちていませんでした。
「どうする?」
こういうときはどうすればいいのか……警察には届けたほうがいいのか。
4人で顔を見合わせて途方に暮れていましたが、いちおう警察に電話するか、という空気になった時、一台の車が通りかかりました。
それは予約車の表示を出したタクシーで、4人の様子を見たらしく、初老の運転手さんが、
「どうかしましたか?」
と、車を降りてきてくれました。
4人は縋る思いで、運転手さんにさっきあったことを話し、こういうときどうしたらいいかを訊ねました。
「ああ、そう、うーん……」
運転手さんは4人の話を聞くと、車を懐中電灯で照らしながら、あちこち点検し、ブレーキ痕や側の雑木林を調べていましたが、
「君たち、あのホテルへ肝試しにでも行ってたんでしょう」
と、言って苦笑しました。
このあたりでは、あのホテルに行った帰り、ときどきこういう不可解なことが起きるのだそうで、
「この車、見たところ新車でしょ? 綺麗なもんだ、疵や凹みひとつないし、本当に人をはねてたらこんなのありえないよ」
と笑います。
「相手が実体のない幽霊じゃ事故にはならないよ。気持ち悪いだろうけど忘れるんだね、あと、面白半分でおかしなところへ行くもんじゃないよ」
優しく言ってくれる運転手さんに救われたような気持ちになったそうです。
「それじゃ気をつけて」
去っていくタクシーに4人は深々と頭を下げて礼を言い、車に乗り込んだのでした。
「幽霊をはねたって……縁起でもねえなあ」
「でもあの人が通りかかってくれてよかったよな」
「助かったなあ……」
「いや、ほんとに」
さっきの出来事は気味が悪いものの、車内はホッとした空気に包まれていました。
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