出頭前に
投稿者:テイ (4)
友人が話を聞いてほしいと言うのでバーで落ち合った。
友人の勤める会社にいる、Nという男性の話だそうだ。
三十代で課長を務め、上司から信頼され、部下に慕われ、家には妻と2人の子供がおり、忙しい仕事の合間を縫って年一回は家族旅行へ連れて行く。会社でも家庭でも申し分のない男に思える。
しかし、完璧な人間などいない。Nは不倫していた。相手は2年前、会社を退職した二十代の女性で、Nのかつての部下だった。関係は三年程続いてきたが、最近は会う度に、奥さんと別れて自分と一緒になってほしい、としつこく迫るようになった。
ついにはNの家に「Nさん、いらっしゃいますか?」と何度も電話してくるようになった。
Nは話がある、と不倫相手をホテルに呼び出した。笑顔で抱きつこうとする女の顔を、Nは力一杯平手で打った。
「いい加減にしろ!」「妻と別れる気は無い!お前と一緒になる気も無い!」「遊びなんだよ!もう十分楽しんだだろ!」
「迷惑なんだよ!消えろ!消えてくれ!!」
Nは仁王立ちになって息を荒げ、女は床に倒れ込み、打たれた頬を抑えている。Nが踵を返そうとすると、女がぽつりと、「…全部バラしてやる」と言う。
「……何だと」
「全部バラしてやるんだから!全部全部!ぶちまけてやるんだから!!」
物凄い形相で女が叫ぶ。Nは「ふざけるなぁッ!」と女の襟首を掴み、平手で何度も打ち据える。
「全部ッ、うッ、全部、壊してやるっうッ」
「うるさいっ、うるさいっ、うるさあぁいッ!」
いつしかNは、倒れた女にのしかかりその首を両手で絞めている。
「…うっぐッ、…ぐぐぅ……」
「死ね、死ね、死ねえぇぇぇぇッ!!」
それでどうなった、と私が聞くと、これで終わりだよ、と友人は言い、帰ろうとした。
「N島、子供は元気か」
「もう会うことは無いよ」
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。