魂を吸い上げる広場
投稿者:ぴ (414)
お酒のせいでへろっへろだった足をなんとか動かして、千鳥足のままようやくその場から離れ、犬が広場にやってきた頃には少し距離を保つことができました。
遠くから広場にやってきた犬を見ていると、犬はさらに様子がおかしくなったのです。
急にガタガタと震えだしたかと思うと、体を小さく屈めて苦しそうにしました。
そして犬は口の中から何かをぐぇっと吐き出しました。
吐き出したものはもくもくとした煙のようなもので、それはゆっくりと犬の周囲をふわふわと旋回し、何か彷徨うかのように何週もその広場をぐるぐると回りました。
そして、そのまままるで吸い上げられるように上空にシュッと消えていったのです。
何が起こったのか分からなくて、しばらくそこに呆然としていました。
私がそれを見て思ったのは「魂みたいだな」ってことなのです。
まるで魂みたいな形の煙が犬の口から出てきて、そして上空に消えたように見えました。
しばらくして私はよろよろとしながら歩いて、犬の様子を確認しました。
犬はもう息がなくて、ピクリとも動かなかったです。
これを見たときに私は強い恐怖を感じました。
このままここにいたらヤバイと私の第六感が言っていました。
横っ面を殴られたみたいな衝撃的な出来事で、私はやっと酔いから覚めたのです。
そして必死で広場から出て、細道をもう一度引き返しました。
広場から離れていく途中で、何人かの人とすれ違いました。
どの人にも私は「そっちは危ないです」と声をかけて止めようとしたのですが、誰一人と反応してくれませんでした。
意識がないゾンビみたいな動きで、広場に向かうのを止めることはできませんでした。
私は途中で声かけを諦めて、泣きそうになりながら元来た道を引き返したのです。
一人でやけ酒を飲んだ飲み屋まで戻って来れたときは、安堵のあまりに腰が抜けそうになりました。
それからタクシーに乗り、家にまで辿りつくことができました。
家に着くとこれまでの心労と体力的な疲れが両方襲ってきて、お風呂も入らずそのまま眠りました。
朝起きると目がパンパンに張れていて、仕事がクビで良かったかもしれないと思うほどでした。
そして朝のニュースをなんとなく見たときに、私は雷が落ちたかのような衝撃を受けたのです。
それはとある芸能人が病気で亡くなったというニュースでした。
私はその芸能人が好きだったわけではありません。
特に思い入れがあったわけでもなく、単に顔を見たことがある程度のそんな芸能人でした。
しかし、私は昨日あの訳のわからない広場に行こうとする人たちの中に、その芸能人の顔も見ていたのです。
私はそれを思い出して、ひたひたとした寒気で凍えそうになりました。
数日後、あまりにも気になったもので、勇気をもってあの飲み屋の細道を自転車で走ってみたのです。
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