保護室のTさん
投稿者:禰凜42 (3)
これは、私がうつで精神病院の閉鎖病棟に入院していた時のお話です。
祖母の死と会社の激務が重なって、うつ病を発症してしまった私。漢字も読めなくなり、ベッドから起き上がれない日が続きました。
当時、1人暮らしをしていましたが、様子を見に来た母が、心配だからと私を実家へと連れ帰り、日中動き回れるくらいには症状が回復しました。しかし、死にたい気持ちは消えず、ある日思い余って自殺場所として有名な橋の上から飛び降りようとしました。
その時、ちょうど通りかかった人が車を停めて、私を止めて下さり、警察の方も来て、近くの精神病院に入院することが決まりました。
精神病院の中でも、私が入ったのは、許可なく病棟から出られない閉鎖病棟でした。さらにその中で、自殺しないように監視カメラがついた保護室に私は入れられました。
保護室は何室かあり、数日入院している内に、症状の重い患者さんや、他害の恐れがある患者さんが保護室に入っていると気付きました。
中でも、高齢のTさんというおじいさんは、食事と入浴の時以外は保護室に鍵をかけて隔離されており、朝となく夜となく、保護室の扉をガンガンと蹴る音が聞こえてきました。
その音がうるさいので、早く保護室を出たいなあと思っていました。
しかし、ある夜、いつも聞こえてくるガンガンという音が聞こえてこず、私はぐっすりと眠れました。
その朝、食卓の席にTさんは居ませんでした。
寝坊かな?と思って食事を終え、私は保護室に戻りました。すると、Tさんの部屋の方からまたガンガンというあの音が聞こえてきました。ご飯を食べられなくて機嫌が悪いんだ!そう思った私は、ナースステーションへ行き、Tさんに朝食を食べさせてあげて下さいと頼みました。
すると、看護婦さんたちは顔を見合わせて、
「その音、今もするの?」
と言いました。
「します。うるさいです」
と答えると、看護助手さんが
「Tさん、昨晩亡くなったんだけど」
と言いにくそうに話してくれました。
じゃあ、あのガンガンという音は一体……?
看護婦さんを連れて保護室に戻ると、もうガンガンという音は聞こえず、静かになっていました。看護婦さんたちは気のせいだと言ってくれましたが、怖かったので、早めに保護室を出してもらって、一般病室へ移りました。
お体お大事になすって下さい。
保護室は刑務所より酷い所で、何日もいると自殺願望が大きくなる場所です。