あぜ道の腕
投稿者:ぴ (414)
家は田んぼの広がる田園地帯にありました。
祖父母が農業をしており、都会の暮らしとは程遠い田舎に住んでいたのです。
年老いた両親が心配だったのでしょう。
私の父は祖父母に何があってもいいようにと、結婚と同時にその両親の近くに家を構えて、私が生まれたのです。
一人っ子だったからかもしれませんが、一人で遊ぶのがあまり苦にならない子供でした。
友達に誘われて家でゲームなどをして遊ぶよりも、外で走り回って遊んだり、花を摘んだり、虫取りなどをするのが大好きでした。
そんな私はよくあぜ道を歩いて、一人で遊ぶことが多かったです。
うちの近くの田んぼにはあぜ道があり、私はそこでぴょこぴょこ跳ねるカエルを見ることが好きだったのです。
私が草むらを歩くと、そこからぴょこんとカエルが跳ねて出てきます。
それが楽しくていつもそこを通って散歩していました。
けれどその日はいつもと違って、あぜ道を歩いていると何か変なものを踏んだ感触があったのです。
驚いてもう一度踏むとまた「むぎゅっ」というような変な感触があります。
今まであぜ道を歩いてこんなものを踏んだ経験はありませんでした。
だからそれが何かと私は気になり、足元を見たのです。
それが何か分かった瞬間に、私の口からは悲鳴というか変な声が洩れました。
見たらそのあぜ道に人間の腕が落ちていたのです。
本当に生々しいくらいに腕なのです。
一度触って確かめてみて、やっぱり腕だと思いました。
肘からごそっと手だけが落ちているのです。
あまりのことに私はまだなんだか理解できないまま、すぐに走って、あぜ道を抜け出しました。
そして家まで急いで走っていき、家にいた父を呼んだのです。
父は私が何を言っているのかよく理解しないまま、腕を引っ張る私についてきてくれました。
確かに田んぼのさきほど腕を見たところに父を連れて行ったのです。
そして「ここに腕が落ちてた」と指さして教えました。
父が驚いた顔をして、すぐにそのあぜ道を二人で捜索しました。
けれど不思議なことに、あの腕はあぜ道のどこからも見つからなかったのです。
さっきまで落ちていたはずなのにと私は同じところを何度も探しました。
それでも腕が見つかりません。
父には「絶対にあった」と言ったものの、父は信じてくれませんでした。
何か別のものと見間違ったんだろうと私は父に諭されました。
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