ハエだらけのワンルームマンション
投稿者:輝々 (2)
事故物件という言葉は誰しも耳にしたことがあるはずです。
しかし、実際に事故物件に足を踏み入れたことがある人はあまりいないのではないでしょうか。
普通は好き好んで近づいたりはしないですよね。
これは10年程前の夏。
しがない独身サラリーマンだった私は、当時流行っていた投資用ワンルームマンションを買おうとしていました。
都市部の物件が数百万円で買える。まずは安いワンルームマンションから成功して、くだらないサラリーマン生活を抜け出してやる。
そんな考えでした。
ネットで調べていると、比較的新しい建物なのに値段が安い物件を見つけて、私は早速内見に行くことにしたのです。
不動産屋に案内されて着いたマンションは古臭く、コンクリートの薄暗い廊下は少し不気味さも感じました。
しかし目的の部屋に入ると、そこは綺麗にフルリノベーションされた真新しい綺麗な洋室がありました。
白い壁紙に明るい色彩のフローリング。トイレも、キッチンも新品でした。
これでこの値段はお得感しかない。私は掘り出し物の良物件を見つけた興奮を抑えながら、部屋中を見て回りました。
そして部屋の真ん中にたって周囲を見渡した時、少し違和感に気が付いたのです。
それは部屋中いたるところに落ちている、小さなハエの死体でした。
窓際、壁際、水回り。そして自分の足元にもたくさん。
迷い込んだけど食べ物がなくて死んだのだろうか。そもそもどうしてこんなにハエが入ってきたのだろう。
不動産屋に尋ねても、あぁ…こんなもんじゃないですかね、などといって要領を得ません。
不安になった私は質問を重ねました。
「そもそも、どうしてこの物件はこんなに安い値段で売りにでているんですか?」
すると不動産屋は答えました。
「あれ、お伝えしてなかったですかね。前の入居者の方がお亡くなりになったんですよ」
私は自分の背筋が冷えるのを感じました。
「でも大丈夫ですよ。壁も、床も、設備も全部綺麗に入れ替えてますから。」
その言葉を聞いたとき、私は不動産屋が玄関から奥には一歩も入っていないことに気が付きました。
私だけが、誰かが亡くなったその場を踏み歩いてしまっていたのでした。
後で聞いた話ですが、亡くなってすぐに遺体が発見されなかった場合、
その腐敗臭や床下までしみ込んだ体液の匂いは、なかなか落ちないのだそうです。
夏の虫たちも不動産屋もみんな何があったか知っていたのですね。
結局、ワンルームマンション投資はしませんでした。
無知だったゆえに、私だけが何も知らずに踏み込んでしまった事故物件の話でした。
事故物件って無理ですね。見えるとかじゃなくて安眠できなくなりそうです。