私が唯一の目撃者
投稿者:ぴ (414)
そこで私はさすがにおかしいことに気づき始めました。
いくら花火大会をしているからといって、目の前でこんなことをしている人がいたら少しはざわめきが起きてもおかしくないはずです。
なのに周囲の人が誰ひとりと反応もしないことに違和感を感じたのです。
しばらく彼女が彼の首を絞め続けていると、急に彼の様子がおかしくなりました。
彼は「なんか息苦しいな」と言い始めたのです。
心配する女をよそに、後ろの彼女はますます手に力を籠めるかのように彼の首を絞め続けます。
そしたら彼はよろよろし始めて、隣の女性に支えられながらどこかに行ってしまいました。
彼らとすれ違う瞬間に、私は彼の首を絞めている彼女と目が遭ったと思います。
そしたら彼女はゾッとするような薄ら笑いを浮かべていました。
そのときになって初めて、私は見てはいけないものだったと気づいたのです。
花火大会が終わって、私はようよう家に帰りつきました。
最後に見た顔が何度も繰り返し思い出され、背筋が凍り付きそうでした。
その翌日の朝何台か救急車が走る音を聞きました。
こんな朝っぱらからなんだろうと思ったのですが、後に聞いた話花火大会の開催場所の港で、若い男女の心中事件があったと聞きました。
二人して身投げしたらしいです。
女性の方は奇跡的に助かったのですが、男性のほうは心停止して助からなかったという話を聞きました。
必ずしも身投げした男女が花火大会で見た男女だったかは判断しかねます。
身投げした男女の顔までは分からなかったため、もしかしたら別人だったかもしれません。
でも私は彼の首を絞めていた彼女の顔が忘れられないのです。
あんなにたくさん人が集まっている場所で、男の首を絞めている人を見た目撃者は私だけでした。
あんなに目立つ人たちを誰も見ていないなんて、ありえません。
つまり他の人には見えない存在だったのではないでしょうか。
私が目撃したのはまさに男女の修羅場であり、非現実的ではありますが自分を裏切った彼を取り殺そうとする彼女の霊だったんじゃないかと思います。
私はきっとあの場で唯一の目撃者だったと思っています。
首を絞めていた女性は元カノで生霊だったのでは?