美悠の観察日記
投稿者:ねこじろう (147)
元カレのエスカレートするストーカー行為に身の危険を感じ始めた私は、急遽引っ越すことにした。
休みの日を一日潰して不動産屋を廻ったのだが、予算に見合う物件は中々見つからなかった。
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「郊外にはなるんだけど、面白い物件あるよ」
三軒めに立ち寄った小さな不動産屋の調子よさげなハゲ親爺が、私の前の机上に物件資料を置いた。
「築三十五年、木造スレート葺二階建ての一軒家で家賃は二万円。
去年まで、おたくのような若い女性が暮らしていたから中はきれいなもんだよ。
かなりがたはきてるけど、おたくのような若い一人ものが暮らすには申し分ないんじゃない?」
いい加減そうな爺の勝手な言い分にちょっと腹が立ったけど、今住んでいるところを一刻も早く出たかったし、家賃も魅力的だったので、私はこの物件に決めた。
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早速私は翌日有休をとって会社を休み、一日がかりで引っ越しを終えた。
その家は市街地から車で一時間の立地。
周囲にはスーパーやコンビニさえも見当たらないような、古い住宅街の一画だった。
周りの家もほとんど、築最低三十年は経っているような木造の家ばかりだ。
一階には台所付きの居間と和室の二間とトイレ、風呂。二階には和室が二間ある。
庭はそこそこ広いのだが、やはりかなり荒れていて雑草が生え放題だ。
ただ中央の少し小高くなったところに立派な柿の木が一本植えられていて、そこだけ妙に印象的だった。
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午後十時。
和室に置かれた私物の詰め込まれた段ボールの山を眺めながら、私は居間のテーブルで遅い夕食を食べていた。
テレビもまだ設置していないので、とても静かだ。
庭に植えられた柿の木の枝葉が風で擦れあう音が聞こえるほどだ。
すると、
─ゴトッ……
頭の上から奇妙な物音がした。
─何だろう?
私は思わず天井を見た。
気になったので立ち上がり、玄関上がってすぐにある階段を上がってみる。
二階には階段上がってすぐ左右に、八畳くらいの和室がある。
居間のちょうど真上にあたる部屋は左の部屋だ。
私はそろっと襖を開けてみた。
暗闇の中、壁にあるスイッチを探して点ける。
殺風景な畳部屋が、パッと現れた。
何が許せないの?