大輔と花子

しばらくすると、オスの大輔が、続いてメスの花子が現れた。
花子の背中には小さなチンパンジーが懸命にしがみついている。

あちこちから、感嘆の声があがる。

─わあ、可愛い！
ジョージ～ジョージ～
見て見て、あんなにちっちゃ～い！

大輔と花子は聴衆のすぐ前を四つ足で通り過ぎ、しばらくうろうろすると、最後はケージ中央にあるひときわ大きな岩の前に座り寛ぎだした。
この位置だと、聴衆からもはっきりジョージの姿が見える距離だ。

感嘆の声はしばらく続いていたが、やがて何故か今度はあちこちから、どよめきが起こりだした。
最前列にいる若い女性たちが、ひそひそと話す声が聞こえる。

─ちょっと見て、あれ何？
本当にチンパンジー？
キモいんだけど、、、

地面に座り毛繕いをする花子の前で、
ジョージが戯れている。
一見それは黒い毛皮に包まれた普通のチンパンジーに見える。

だがどこかおかしかった。

１つは、
黒い毛皮の毛量が極端に少ないこと。
頭部、胸部、脚部にしか生えていない。
肌質も普通のチンパンジーよりも肌色でツルツルしているようだ

そしてもう１つは、、、

その顔が、
人間の顔そのものだった。

【了】