捨てられたドール人形

Ｂがおかしくなったのは廃ビルに肝試しに行ってからだ。
だが、俺とＡに特に異常が見られない事から、恐らくＢがおかしくなかったのには少なからずあのドール人形が関係しているに違いない。

そう考えた俺はBの父親に訊ねてみたのだが、

『あれは……寺に預けたよ』

と、素っ気ない返事を得た。

父親が言うには、あの人形をＢから引きはがした後、何だか捨てたら災いが身に降りかかりそうな不安を覚え、人形の供養を受け入れていると聞く、とある寺に預けたそうだ。
Ｂは未だ病室のベッドに縛り付けられた状態でしきりに人形を寄越せを叫んでいるそうだが、人形を供養する事で少しでも改善するなら御の字だと父親はため息をつくように笑った。

それから三年後、Ｂは退院して大学にも復学している。
残念ながら留年はほぼ決まった様なものだが、せっかく入った大学の卒業資格だけは取らせるとＢの父親が半ば無理矢理通わせている様な状態だが、Ｂ自身も人が変わった様に……いや、元に戻った様に勉学に勤しんでいる。

再会した時にはかなり気を使ったものだが、Ｂ本人は「おう、久しぶりだな」と平然としており、俺とＡはあの時のＢは夢か若しくは別人だったのではと勘繰った程だった。

ただ、心霊動画なんか見てる時にドール人形が映り込むと、Ｂはピクッと眉を撥ねる様に反応するがすぐに意識していない様に「ははは、これこえーな」と平静を装っている。

その様子を見て、俺はＢが完全にはあの人形の事を忘れている訳がないと思ったが、ここで人形の話題を振ればＢが再びおかしくなってしまうと考えて、恐ろしくてとてもじゃないが口に出せなかった。

Ｂがどうして元に戻れたのかは分からないが、もしかしたら父親があの人形を寺に預けた行為が功を奏したのかもしれない。

俺はＢが一時的におかしくなった時と今の様子を見比べながら、元通りになったＢに安堵している。

しかし、あれから三年経った今も気になる事がある。
俺達が電話を掛けた際にBのスマホから聞こえてきた女性の声は誰だったのだろうか。

正確にはその正体に心当たりはあるのだが、万が一それが正体だと確定すればそれが一番怖い。

俺は、Bがまたおかしくならないように祈る事しかできない。