人を虐めちゃいけない理由

しばらく待つと電車がやってきました。
外観は普通の地上線の電車と言った感じで
特に変哲もないごく一般的なフォルムです。
出来ればこの奇妙な場所から
抜けたかったのですが、
あいにく出口などもありませんし、
ここを乗り過ごすとひとりぼっちのまま、
次がいつ来るかわかりません。
仕方なく私は車内へと入りました。

車内にはたくさんの人がいました。

年齢層は幅広く、お年寄りから
5歳くらいの小さな子まで、
さらに言えば不気味なことに、
生まれてきてからまだ間もないであろう赤子や、小さい小さい肉の塊みたいな、
妊婦さんのエコー写真で
よく見る生まれて来る前の身体が未成熟な赤子まで電車の座席には座っていました。
幼い子や若い人が優先座席には座っていて、
普通座席の方には中年の方が、
つり革に捕まっているのは老人、
というような様子で、

まるであの看板の文字のように
若者と老人の扱いが反転していました。

気後れしつつも両足を完全に車内へ入った私は中の客たちから拍手を受けました。
拍手といってもただの拍手じゃありません。
手の甲と手の甲をぶつけて音を出す、
いわゆる裏拍手というやつでした。
能面のような綺麗で、
それでいて不気味な笑みを浮かべながら、
赤子から老人まで、車内にいる全員が私に
裏拍手を送ります。