悶(もだえ)
投稿者:四川獅門 (33)
「カラオケ行く人~!」という呼び掛けに、藤木さんは焦る。今すぐ帰りたい。そう思っていた。
「俺、明日早いからもう帰るわ」
そう言って藤木さんは居酒屋を出た。外に出ると雨が降っていて雷が鳴っている。
駅でタクシーに乗ろうとしたが、こんな時に限ってタクシーは1台もいなかった。
藤木さんは雨の中、アパートへと歩き出した。
帰路の途中、藤木さんが考えるのは亡くなった上野君の事だった。
━━1997年 夏の日
その日、藤木さんは上野君を恨んでいた。「誰にも言わないから」と言われ、上野君に打ち明けた好きな女子の名前を言いふらされたのだ。
クラスメイトや隣の組の子にもイジられて、藤木さんは心底傷ついた。
放課後にクラブ活動を終えた藤木さんが忘れ物を取りに教室へ行くと、上野君が窓辺に腰掛けていた。
『 言いたいことを言ってやる!』そう思った藤木さんは上野君へ詰め寄り真正面から肩を小突いた。
フッと上野君の体が教室の外に放り出される。何故だ?藤木さんは混乱する。
窓が開いていたのだ。
目を見開き、口をポカンと開けた親友がスローモーションで落ちていく。手足をバタつかせ。地面に吸い込まれて行く。
両目を覆うと同時に、親友が砕け散る音がした。
すぐに誰かが気付き、救急車が来たが、上野君は助からなかった。
藤木さんは何も知らない事にした。
「僕じゃない。あれはただの事故だった。上野君は事故で死んだ。間違って落ちたんだ」
そう自分に言い聞かせて生きてきた。
忌まわしい記憶を振り切るように、藤木さんは雨の中を歩き続けた。
そんな時、ふと背中に妙な気配を感じた。
振り返る。20m程先の街灯の下、薄明かりに照らされた人影がある。子供だ。
雨の中だというのに、傘も刺さず、突っ立っている。
不審に思いながらも数歩進む、また振り返る。その間約3秒程、人影がすぐ先の電灯の下で立っている。あまりにも速すぎる。
恐ろしくなった藤木さんは、走り出した。
何度か振り返る。子供の人影は一定の距離を保って藤木さんを付けて来る。
アパートへたどり着いた藤木さんは、錆び付いた鉄骨階段を駆け上がる。
自室である2階の突き当たりの部屋へ向かう。
振り返ると、黒い人影が駆け足で階段を上がって来ている。
良い締め方ですね、素敵です
オチが怖すぎる
素晴らしい。全体の雰囲気も、締めの一言も……
怖い!
雰囲気がなかなか良いですね
小学生の恋心を言いふらした者に待ち受けた報いが死というのは少々重すぎたかもしれませんね