指を差し数える影
投稿者:すだれ (27)
「お前ら俺の演舞ほとんど見てなかったろーッ!」
「出店の手伝いで」
「遠くからは見てたさ」
「嘘だ!お前ら全然櫓見てなかったじゃん!」
「ああ、君がいた櫓からはこっちも丸見えか」
「金魚みてた!キレイでしょ?」
女の子からキラキラした目でにこやかに金魚の袋を見せられれば従弟も「まぁ…キレイだけどね…」と鎮火していき、兄も此方も笑いを堪えた。
「てか校舎指差してたろ。見てて焦ったんだけど」
毒気を抜かれた従弟が女の子に聞こえないボリュームの声で言う。
反応したのは兄だった。
「は?マジで?お前が?」
「いや、自分じゃなくてこっち…そうそう、聞こうと思ったんだ。何も無い窓指差して数を数え始めたから」
「…いくつ数えた?」
「5…だったかな」
「ああ」
じゃあまだセーフ、と従弟が胸を撫でおろす。ジトリとした目線を兄から浴びた従弟はまるで弁明するように手を振った。
「いや、学校の七不思議?みたいなヤツっていうか…ちょっとした噂があって…夜、校舎の窓際に誰か人影みたいなのが立ってて、詳しい人数はわからないけど7人以上はいるっぽい」
「人影?」
「そう。で、立ってるヤツ全部数えると良くない事が起きるっていう…」
「5人はセーフ?」
「うん。セーフ」
「まあ子供が考えた七不思議っぽいと言えばそうだが…」
「ねえねえ、さっき食べてたりんごあめ、わたしもたべたい!」
「お、じゃあ俺も食べよ。買ってくるわ」
従弟が女の子を連れて出店の方へ向かう。
離れていく2人の背中を見つめていた兄が口を開いた。
「よく、数えるの止めさせたな」
「勘…としか。数えさせちゃいけないと思って」
「勘かぁ」
「なあ、その人影は何者なんだ。本当に幽霊か?妖怪の類の可能性は?この学校…この土地に由来するのか?過去にここで何かあったのか?何で数えちゃいけない?何で「数えちゃいけない」なんて戒めが伝わった?数えたら、一体何が起こるんだ…」
「おい」
「兄から詳しい事は聞けずじまい」なのに成人した女の子にあの時のことを聞こうとして、兄に諫められている。
つまりあの時の事を兄と話す機会はあったのに詳しく聞かないのは矛盾している気がします。