指を差し数える影
投稿者:すだれ (27)
「に」
ツイ、と指を横に滑らせ一言。
窓には何も無い。太鼓の地響きに内臓が揺さぶられる。
「さん」
もう1つ隣の窓を指差す。何も無い。
演舞の掛け声が遠く感じた。
「し」
指先は1階へ。保健室、と書かれた窓を指す。何も無い。
太鼓の響きが脳まで揺らす。
警鐘だと思った。
「ご」
何かはわからないが、この子は何かを数えている。
「…どうしたの?」
このまま数えさせてはいけないという考えが占め、
恐らく「ろく」と言おうとした女の子の目前に、金魚の入った袋を掲げた。
女の子は金魚を見、此方を見るが指は降ろさない。
「君、さっき金魚の言葉を聞いたろ?」
「うん」
「良ければその子、君の家の水槽に入れてやってくれないか」
「わたしのいえのすいそう?」
「ん。うちの水槽、掃除が間に合いそうにないんだ。君がお話しできる…縁ある金魚なら、君の家の方が快適に過ごせると思うんだ。お母様には言っておくから」
「ほんと?この、この泳いでる赤い子、わたしのいえによんでいいの?」
「いいよ。金魚は何か言ってる?」
「うれしいって!」
女の子の指と目は袋の中を泳ぐ金魚を追った。
校舎を指さなくなった指を、校舎を見なくなった目を見て安堵の息が漏れた。
内臓を揺らした太鼓は終わっていた。
出店の手伝いから解放された兄に金魚の袋を2つに分けてもらった。
1つは自宅用、もう1つは女の子が持ち帰る用に。女の子は赤い金魚が入った袋を眺めては嬉しそうに笑った。
「何か変わったことはなかったか」と聞く兄にはいわゆる霊感がある。先ほどの女の子の話をしようと口を開いた時、遠くから演舞衣装を着たままの従弟が走ってきた。
「兄から詳しい事は聞けずじまい」なのに成人した女の子にあの時のことを聞こうとして、兄に諫められている。
つまりあの時の事を兄と話す機会はあったのに詳しく聞かないのは矛盾している気がします。