トイレの老婆
投稿者:yukina14 (1)
と、明らかに目の前の個室の一つから音が鳴る瞬間に出くわすハメになった。
「うわうわうわ、マジ無理無理無理」
「ぜったいそこから聞こえたよね?」
女友達の二人が私の両サイドから抱き着いて怖がる。
あたしも二人が言うように、明らかに目の前の個室から音が聞こえたと感じたから、頭の中では「え?マジであそこから聞こえてんの?誰か中にいんの?」とプチパニックに陥っていた。
勿論、そんな弱腰な部分は表に出さなかったけど、あたしは次の瞬間には「開けてみる?」と自分でも意外な一言を口走った。
更に不思議なのが普段から怖がりな二人もそれに同調する様に弱々しく「…うん」と続けた事だった。
あたしは二人に抱き着かれながらも、目の前の個室の扉に指先をあてる。
そして、「あ、あけるよ…?」と深呼吸をして一気に扉を押し退けると、勢いよく扉が開く。
次瞬、和式便座にお尻を丸出しにして屈んでいた老婆と目が合うと、あたし達は目を丸くしたまま硬直した。
あたし達の思考回路がショートしていると、
『見てんじゃないよおおおおおおお』
と、老婆が鬼の様な形相になって立ち上がった。
老婆の怒声を受けたおかげか、あたし達は正気を取り戻して叫ぶ。
「「「きゃあああああああああああ!」」」
女三人は悲鳴を上げながら女子トイレから一目散に逃げ出すと、廊下に飛び出るなり転げる様にして床にへたり込む。
すぐ後に男子トイレから男二人が「え、なになに?」「大丈夫か?」と駆け出して来たのが見えたけど、あたし達は三人共女子トイレの方を指出すのが精一杯だったせいか、男二人は「そっちに何かいたの?」とあたし達と女子トイレの入口を交互に見ていた。
そして、女友達の一人が「な、中にヤバイの居た!」と声を絞り出すと、男二人は「マジか!」と
、幽霊を一目見たかったのか、全速力で女子トイレに突入していった。
すると、男二人がトイレに入って僅か五秒もしない内に中から「うわああああああああ!」と絶叫がこだまして、二人が血相を変えて廊下に逃げ帰ってきた。
「マジやべええ!」
「おい、逃げるぞ!」
ただ、男性陣はやけに取り乱した態度で脱力し切ったあたし達を立ち上がらせては、腕を引っ張って廃墟から連れ出そうとする。
あたし達はそんなにあの老婆が怖かったのかと思い、一先ず廃墟から逃げ出す事には賛成だったので無言のまま廊下を走り抜け、廃墟から脱出した。
外に出ると流石に運動不足の極みか、横腹が痛むし息切れも激しい。
あたし達はそれぞれ地面を見下ろしては息が整うまで肩を上下させていた。
そして、暫く休憩した後、男二人が口を開く。
「あれはマジでやべえわ」
「お前らもアレ見たのか?」
そう問われたあたし達は互いに顔を見合わせて、
その後祟られる事がなかったのか?
後々なんもなければいいけど