ある山道脇の塚
投稿者:赤壁二世 (13)
俺は車を停めて体をよじり肉眼で後部を確かめる。
すると、時折だが、暗闇の中に人影らしき白いものがぼんやりと窺えた。
「あれ人かな?」
少し自信が無かったので彼女に問い掛けてみると、
「やっぱ見える?」
B子は俺が見えた事に安心したのか、大きく安堵の溜め息をついていた。
「なんで?」
「……実は、ちょっと前から私もあれに気付いたんだけど、なんかおかしいの」
「何が?」
「……わたしたち車でしょ?なのにずーっとあんな感じで見えてたから幽霊かと思ってた」
そう言ってB子は「あんたも見えるなら人かもね」と笑い、「ビビッて損したわー」と助手席のシートで体を延ばして緊張を解していた。
しかし、B子の話が本当だとしたら、それはそれで可笑しくはないだろうか?
徐行運転とは言え、20キロ近くは出ている車の後をずっと追いかけてきたのか?
ずっと追いかけられる程には走れるのに、一向に俺達の所まで来ないのは何故だ?
俺は少し離れた場所に浮かぶ白い人影らしきものを凝視しながらそんな事を考えていた。
「助けてあげた方がいいかな?警察に電話してみる?」
「……いや」
B子はあの白い人影が幽霊じゃないと思い込んだ途端かなり警戒心を解いているが、一転して俺は警戒心がビンビンだ。
「もし困ってる人なら待ってみよう」
B子はスマホを握りながら首を傾げていたが、俺は体をよじったまま後部を凝視する体勢で様子を窺う事にした。
しかし、俺の憶測通りなのかは分からないが、あの白い人影との車間距離は縮まることはない。
こっちは停車して待っているというのに、どういう訳かあの人影は一向にこっちに向かって来ないのだ。
「やっぱあれおかしくない?」
「え?じゃあ幽霊なの?」
幽霊を見た事が無いから断言できないが、あの人影が普通じゃない事は確かだ。
しかし、本当に困っている人間の可能性も無きにしも非ずといった感じで、このままでは二進も三進も行かないと思った俺は窓を開けて声を掛ける事にした。
「すみませーん、通りすがりですが困ってるなら警察を呼びましょうかー?」
人影に向かって大声を放った所で俺はシートに座り直し、返事を待つ。
「これで返事が無いようならちょっと変な人かもしれないから、無視して進もう」
これにはB子も概ね同意だったのか「うん」と頷いてくれた。
おっさんは恋のキューピッドの逆バージョンの存在かもしれないですね