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ヒトコワ

道しるべさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ある一家が深夜に外国人に拉致された話
短編 2022/06/21 22:41 4,979view
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始めにお断りしておきます。これは怖い話ではありません。むしろ笑い話として私の鉄板ネタとなっている出来事です。
ただ目撃された方にとっては……心底恐ろしい思いをさせてしまったかもしれないのであえて「怖い話」として投稿させていただきました。

数年前の深夜1時過ぎくらいだったでしょうか、突然我が家のインターホンが鳴り響きました。たまたま遅くまで仕事を片付けていた私は不審に思いながらモニターを覗くと、そこには見慣れない外国人の女性が立っていました。
「……どちらさまでしょうか?」と警戒しながら尋ねると、相手はカタコトの日本語でこう話してきました。
「ア、アノ、ワタシ〇〇ノムスメデス」
その名前を聞いて私は思わず声をあげました。
その〇〇という人物は私たち一家にとってとても感慨深い名前だったのです。

時を遡ること二十数年前、私の両親は飲食店を営んでいました。その〇〇さんはそこの調理人として長年働いてくれていた人物だったのです。
〇〇さんは某国からの不法入国者でしたが、料理人としてのスキルは完璧で、お世辞にも高給とはいえないうちのお店でも熱心に働くとてもまじめな人物でした。
そんな彼の人柄を信用していた私の両親は、本当はいけないことであると知りつつも彼のために自分の名義でマンションを借りて彼や彼の仲間たちの生活の場を用意していたりしました。
ところがある時彼は町中で職質をかけられて、不法入国者であることがバレてしまい入管に送致されてしまったのです。
そこでかなり厳しい取り調べを受けながらも彼は仲間たちのことや私の両親に部屋を用意してもらったことなどは一切話さずに黙秘を貫いたまま本国へ強制送還されてしまいました。
そのおかげで私たちは何一つ咎めを受けることはなかったのですが、メインの料理人を失った代償は大きく店はしばらくして閉店することになりました。

彼が強制送還されてしばらくは手紙などが届いていたのですが、いつの間にかその便りもなくなってしまいました。
その後彼の仲間だった人から聞いたところによると、どうやら彼の故郷は大きな天災に見舞われ、彼とも連絡がとれなくなってしまったとのことです。その人が言うには、おそらくは生きていないだろうということでした。

なので私たちの中では彼は亡くなったものとしていたのですが、彼の娘を名乗る女性から衝撃的な事実を知らされました。
なんと彼は生きていたのです。
故郷で天災に巻き込まれたことまでは事実でした。しかし彼はその天災を利用して一計を案じていたのでした。
彼はなんと災害で自分を死んだことにして再び国外へ脱出していたのです。一度不法入国で強制送還された身ではもう正規のルートで海外へ出ることは叶わない、しかしどうしてももう一度日本へ行きたかった彼は大きな災害のゴタゴタに乗じて国を脱出したのです。
そして向かった先はアメリカでした。彼はアメリカで難民として市民権を得てからいずれまた日本に向かおうという計画を立てていたのです。
彼はアメリカで必死に働きとうとう難民申請をパスしてアメリカ国民となりました。そこで結婚をし子供をもうけましたが今度は子育てに必死になってなかなか日本へ渡る目途が立たず、気がつけばもういい歳になっていました。そんな彼のために娘は日本へ留学する決意をしたそうです。
彼女は必死に勉強しながら父に日本語を習い、このたびようやく日本へ留学することができた。
真っ先に我々家族にそれを知らせたかったからこんな夜中になってしまったと語ってくれました。
私は話を聞いているうちに涙が止まらなくなり、矢も楯もたまらず近くに住んでいる両親を叩き起こし彼女に引き合わせました。両親も大泣きしながら手を取り合い「よくきてくれた、本当によかった」とみんなで彼女と抱き合いました。
そして彼女はかつての彼の仲間だった人物の元にホームステイをしているとのことでした。実はその人物にここまで送ってもらったのだと。
もちろんその人物にも面識があったので礼を言いに行くと、せっかくだからこのまま我々の家に来てくれないかと誘われました。もう遅い時間だけど再会を祝して飲み明かそう、と。

我々家族はそのまま彼の車に乗り込みお宅へお邪魔することにしました。

翌朝、どんちゃん騒ぎから家に戻った我々は信じられない光景を目撃することになりました。
我が家の前に何台ものパトカーが止まり、家の前にたくさんの警察官が集まっていたのです。
何事かと思い彼らの前に詰め寄ると警察官の1人がこう叫びました。
「戻られました!大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
全く状況を飲み込めなかった我々はポカンとしてしまいました。え、空き巣でも入った?火事でもあった???などと考えていると警官の1人が状況を説明してくれました。
どうやら夜中にこう通報があったようです。
隣の家の一家が夜中に外国人らしき相手と大声でモメていた。そしてそのまま車で拉致されていった、と。
ようやく状況を理解した我々は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらわけを説明しました。
その時の警察官の「はぁ????」といった表情が今でも忘れられません。
警察には事情を説明しお引き取りいただき、ご近所さんには一軒一軒謝罪に出向くことになりました。
昨日はまるで自分たちが映画の主人公になったような気分だったのですが、現実はあくまで現実なのだと反省しきりです。
近所の一家が謎の外国人に拉致される瞬間を目撃してしまったら、さぞ恐ろしかったことでしょうね……

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