「後で兄貴の分作ってやればいいしな」
松原さんは独り言を零し兄の夕飯を頂く事にした。
「頂きます……」
手を合わせ箸を魚の白身に付け口に入れた。
追いかけるように白飯をかき込み、味噌汁で口の中を胃袋に流し込む。
空腹感が徐々に解消され、松原さんの険しかった表情が和らいでいく。
その後も食事を進めていくと、魚はほとんど骨身になってしまった。
だが松原さんには一つ楽しみがあった。
それは頭の部分にある目玉だ。
彼はこれが大好物だった。
箸で器用に目玉を取り出すと、煮汁に浸しそれを箸で掴もうとする。しかし。
ポロリと箸から目玉が零れ落ちた。
再度箸で目玉を掴む。
だが、目玉はそれに抵抗するかの様に滑り皿の上を転がった。
その瞬間、松原さんの心に不思議と湧き上がる感情が芽生えた。
怒りだ。
普段ならこんな事で腹を立てる様な松原さんではない。
しかしなぜだかその時は違った。
無性に腹が立ったのだ。自分でも抑えられないくらいの。
松原さんは再び箸で勢いよく目玉を掴んだ。
だが目玉はまたもや転げ落ちてしまった。
苛立ちが募り松原さんの眉が吊り上がっていく。
「何だよくそっ……」
吐き捨てるように言いながら彼は箸を目玉に向けた。
その時だ。煮汁に浮かんだ目玉が一人でに動き、松原さんをじろりと見つめた。
有り得ない異常な光景。
彼はそれにぞくりとし目を見開く。
しかし、何故か驚きはしなかった。
それよりもむしろ、怒りがそれを上回っていたのだ。
しかも最早怒りを通り越し、恨みや殺意にも似たドス黒い感情が松原さんを支配していた。
自分を制御出来ない……。
























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