花いちもんめ
投稿者:煙巻 (8)
赤い光がスーッと浮上したかと思えば、あの女の子の顔が水面に揺れて水の中から俺の事を見ている。
後ろの音は足音となり、ザッザッザと俺のすぐ背後まで迫ってきている。
もうダメだ。
子供ながら俺はそう思って奥歯を噛みしめていると、
「何しとん?」
と、男の子の声が聞こえると振り返る事ができた。
俺は声の主を見上げると、その男の子は地元の子供で、俺が毎年遊んでいる男の子だった。
「今年も来たんやね」
男の子の後ろには他に3人くらいの同年代の子供がいて、我先にと川に足を浸けて涼んでいる。
俺はふと女の子の事を思い出して、水面へと振り返る。
だが、そこには水流が作り出す波紋が光を反射させているだけだった。
「……女の子みなかった?」
「女?見んよ」
思わず突拍子もない事を聞いてみたが、男の子は周囲を軽く見渡した後にそっけなく答えた。
その日、俺は結局良く分からないまま男の子達と川遊びをして夕方には祖父母の家に戻って美味しい夕飯をいただいた。
両親は俺が言いつけを破って川で遊んでいた事にだいぶ激怒していたが、祖父母は地元の子供が遊べる範囲の小さな滝壺だから大丈夫だとやんわりと助け船を出してくれる。
賑やかな食卓は川で遭遇した女の子の事を忘れさせるには充分だった。
そんな事があった夏はあっという間に終わり、俺も高校生になった。
毎年欠かさず祖父母の家に遊びに行っているが、あれ以来女の子とは会っていない。
そのせいか、女の子の事を殆ど忘れていたんだけど、記憶は唐突に呼び起こされる。
「あらー、やだやだ。骨が見つかったって」
「骨?」
スマホが普及し始めた頃、母親が画面を見ながらそんな事を零していたのを聞いて、関心を持った俺は声を掛けた。
「ほら、お爺ちゃん家の近く。川の中から行方不明の女の子の骨が出てきたって。可哀相にね、きっと溺れて亡くなったのね」
じいちゃん家の近くの川。
俺は当時の記憶を手繰り、あの時の女の子を思い出した。
そして俺は数年越しに、フジツボのように浮腫んだ凹凸のある顔や水に飛び込んだまま消えた理由を理解した。
きっとあの子は川で溺死した子供の幽霊だったのだと。
女の子の正体が分かった反面、俺は背筋を震わせる。
女の子の歌っていた花いちもんめ。
あれは一人が寂しいから誰か仲間を呼び集めていたのではないだろうか。
あの時、地元の男の子達が来てくれなかったら俺はどうなっていたのだろうか。
どこか切ないお話ですね
面白かったです
見つけてほしかったんかなぁ
こういうトラウマって一生残りそう水って身近だから。でも女の子もかわいそう、俺も急に一人ぼっちになったら仲間ほしくなると思う
「はないちもんめ」
恐ろしくも悲しいお話でした。
わらべうたにまつわるお話同様、「かごめかごめ」「とうりゃんせ」も、その歌詞の意味を考えるとゾッとしますね。