花いちもんめ
投稿者:煙巻 (8)
俺は暫く女の子の隣で足湯に浸かるように足先で水をバシャバシャと掻き立てて遊んでいた。
すると、突然突風が落葉を巻き上げて吹き抜けたかと思うと、女の子の前髪が浮き上がる。
薄っすらと目を細めて見てみると、鼻先から上の顔が浮腫んだフジツボのような凹凸を作りぬめっとした質感をしていて、青緑に腐ったような色をしていたのを覚えている。
すぐに風が止むと女の子の前髪が垂れて再び顔が隠れる。
俺は今見たものが何だったのか理解が追い付かずに呆けていた。
俺が呆けていると、女の子は再び花いちもんめを口ずさむ。
『隣の君もちょっとおいで、鬼がいるからよーいかん』
何となく口が出せずに隣で歌を聞いていると歌詞が若干違う事に気が付いた。
『あーの子が欲しい』
途端に俺はこれまでにない悪寒に襲われて体が硬直した。
女の子の隣に腰掛けて、水場に顔を下げ、足先だけを水に浸して固まっている。
傍から見れば恋人だとか、仲が良さげな二人に映るかもしれないが、この時の俺の心情は「え?動かねえ」とか雄叫びしたい気持ちでいっぱいで、どうにか動けないものかと結構力んでいた。
『あーの子じゃわーからん…』
女の子の蚊の鳴くような声色が徐々に喉の奥に何か詰まった様な鈍重な声質に推移していく。
俺は唯一動かせる視線だけを頼りに水面をまじまじと見ていると、水面に映る俺の隣に座った女の子の顔が見える事に気づいた。
水面越しに映る女の子の顔は、やはり青緑に浮腫んだ凸凹がフジツボの様な質感を生んでおりとても不気味だったが、今度は瞳らしき双眸の輝きもうかがえる。
例えるなら亀の目だろうか。
突出した凹凸の最奥にギラリと覗く赤い色の瞳。
水面に反射した女の子は赤い双眸を揺らしてニヤリと口角を上げた。
口角を上げると普通は歯が剥き出しになる。
しかし、女の子に真っ白な歯などは存在せず、深緑の海苔が所々に付着したような歯の無い口内が見えるだけだった。
『そーだんしましょ、そうしましょ』
女の子は最後まで歌を歌い上げると、水面の俺目掛けて飛び込んできた。
バシャーン!
と、水飛沫が俺の全身に飛び掛かる。
女の子は川に飛び込んだのだ。
俺は暫く呆然としていたが、後方の茂みからガサガサと音が聞こえてくる。
未だに体の自由は効かない。
水面を黙って見ていると、水底から赤い光が覗いているのが見える。
後方のガサガサと相まって俺の心臓の鼓動が最大級に高鳴っている事が伝わる。
どこか切ないお話ですね
面白かったです
見つけてほしかったんかなぁ
こういうトラウマって一生残りそう水って身近だから。でも女の子もかわいそう、俺も急に一人ぼっちになったら仲間ほしくなると思う
「はないちもんめ」
恐ろしくも悲しいお話でした。
わらべうたにまつわるお話同様、「かごめかごめ」「とうりゃんせ」も、その歌詞の意味を考えるとゾッとしますね。