顔面が生え変わるトンボ

小さい頃、ものすごく奇妙な体験をしたことがあります。

私は家の前が田んぼになっているような田舎に住んでおり、よく虫取りをして遊んでいました。

その日は両親に新しい虫取り網と虫かごを買ってもらい、喜んで遊び始めたのです。しばらく順調に蝶々やトンボを捕まえていたのですが、夢中になるあまり私は勢いよく網を振ってトンボを捕まえてしまいました。

捕まえて羽をつかんで私は気づいたのです。

トンボの頭がないことに。

頭は虫取り網の中に入っていて明らかに私が叩きつけすぎて頭を吹っ飛ばしてしまったみたいでした。

私は驚きのあまり声もなく、手に持っていたトンボを落としました。

もう動かないはずのトンボなのですがぴくぴくと痙攣するように動いていて、怖かったです。

私はそれをおそるおそる見てました。

そしたらぴくぴくしていたトンボの体が一瞬びくっと大きく動いたかと思うと、音声にすると「メキメキ」って感じに新しい頭が生えてきたのです。

そのまま頭が再生したトンボは何事もなかったかのように飛び立っていきました。

私は呆けた顔でそれを眺め、残ったのはさきほど私が飛ばしたはずの頭だけでした。

このことがあって私は一時期トンボの頭は生え変わるものだと思い込んでいました。だって実際にこの目で見ましたから。

しかし、その話を友達にしたら嘘つき呼ばわりされて、それでやっとあのトンボがおかしかったのだと気づいたのです。

今でもあの生々しく頭が生え変わる様子は思い起こせます。本当に信じられない光景なのです。

あのトンボは一体何だったのでしょう。

もちろんその後、頭が生え変わるトンボには出くわしたことがなく、あれが普通のトンボではなかったことだけは確かです。