大学生の頃、駅近くにちょっとした有名人がいた。
「ぶひひひひ~いん」と豚のような鳴き声を真似して小走りでかけていく、見た目小太りのおっさんがいた。
身長は180cm超の大柄で、頭は薄らハゲでとっちらかっており、冬でもランニング短パンと、風貌はまんま乞食か芸人かという見てくれだった。
小学生には豚男(ぶたお)と呼ばれ、「豚男が来た」と指をさされて笑われていた。
豚男は昼夜問わず出没し、奇声を発しながら駆け抜けていく。
飛行機の翼のように腕を広げたり、機関車のように腕を回したりと走り方はバリエーション豊かだった。
時代が時代なら”奇行種”と呼ばれたに違いない、今振り返るとそう確信できる。
人畜無害な奇行種だったので、地元民は特に豚男を気にしている様子はなかった。
ある日、飲み会があって終電に乗るハメになった俺と友人は駅からまっすぐ家に向かっていると後ろから「ぶひひひひ~いん」といつもの奇声が聞こえてきた。
豚男を知らない友人に説明していると、豚男が段々近づいてくるのがわかった。
「豚男楽しみw」
酔った勢いそのままに友達がワクワクして待っていると豚男の姿が見えた。が、その日は様子が違った。
中華包丁を両手に携え、こちらに向かってくるではないか。
俺と友人はあまりの恐怖に全力ダッシュでその場を離れた。
しかし「ぶひぶひ」言いながら包丁を振り回しながら追いかけてくる豚男。
意外にも足が速く、無尽蔵の体力で追いかけてくる。
こちとら酒が入っていたが、さすがに身の危険を感じると酔いもすっ飛んだ。
住宅地に逃げ込み、何とか豚男を巻いた。
どこをどうやって走ったかわからない。深夜に人影もない通りをひたすら走った。
豚男が遠ざかったのか遠くで犬の吠える声がした。
それから豚男の姿は駅周辺から消えた。
あの日、包丁を持って徘徊していたのを見たのは自分たち以外にもいることがわかり、警察への通報もかなりあったそうだ。なぜあの人畜無害な豚男が包丁を持っていたかはわからない。
ただあの日、もし豚男に追いつかれていたら・・・と思うと、今でも背筋が凍りつく。
怖すぎてトラウマになりそうです(T_T)
豚男こえええ。 何するか考えがわからない人ほど怖いと改めて実感した