忘れられない友人
投稿者:夏樹 (2)
私には、どうしても忘れられない友人がいます。
中学二年生のころ、転校生としてやってきた女の子。
名前は仮にI子とします。
父親の転勤についてきたという彼女は、いつも明るく元気で、クラスにすぐに馴染みました。
私はどちらかというと、一人教室の隅っこで本を読んで休み時間を過ごすような性格で、
大勢で遊ぶのは苦手な方だったのですが、彼女に「その本、私も読んだよ!」と話しかけられて以来、よく話すようになり、やがて友人関係になりました。
I子の口癖は、「信じれば、どんな願い事も叶うよ」でした。その言葉に何度も励まされ他クラスメイトは多かったと思います。
彼女の前向きな姿勢、ポジティブな思考、そのすべてに当時の私は憧れていました。
しかし、そんな彼女を快く思わない派閥がありました。
スクールカースト上位のギャルグループで、そのボスの名前を仮にH美とします。
H美が気になっていた男子が、I子を好きになってしまったというのがきっかけだったと記憶しています。本当のところはわかりません、ただ本当に気に入らないというだけだったかもしません。
とにかく、H美を筆頭にギャルグループがI子を無視し始め、やがて物を隠す、ロッカーに閉じ込めるなど陰湿ないじめに発展していきました。
私は、I子を助けたくて教師や周りの大人に相談しました。
それでも、「たかが子供のじゃれあいだろう」と相手にされず、私は途方に暮れました。
友人がひどい目にあっているのに、結局私もH美が怖くて本人にやめるよう言うことができず、
自分の不甲斐なさをI子に詫びました。そんなことをしても意味がないのに。
けれど、I子は私のことを絶対に責めませんでした。いじめを見て見ぬふりをした他の友人たちのことも、「みんなの方が大事だから、それでいい」と言って一切責めませんでした。
いじめが始まって半年ほど経った頃。
その日、教室にH美は現れませんでした。その代わり、担任の教師から告げられたのは、私の頭を一気に冷えさせるものでした。
「H美さんが昨日、交通事故に遭い入院しました」
治るのに時間がかかる、だからみんなで色紙を書いてあげましょう。
そんな的外れなことを言う教師の言葉よりも、私は思わずI子の表情を見てしまったのです。
I子の表情は、いつもと変わらないように見えました。けれど、どこか淡々としていて、まるでこうなることが当たり前だと言わんばかりな、そんな表情に。
クラス全員で色紙にメッセージを書きながら回すことになり、私は何でこんな奴のために書かなきゃいけないんだと思いながら上辺だけの励ましの言葉を書きました。
しかし、書き終わってから全員のメッセージをなんとなく見ていて、私は恐怖を感じていました。
I子から、H美にあてたメッセージ。薄くて今にも消えそうな灰色のペンで書かれた、そのメッセージに、心底身震いをしたのです。
「信じれば、叶うのよ」
スッキリ!