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ヒトコワ

夏樹さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

推しが欲しい
短編 2022/05/29 16:52 3,309view
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前回投稿した話と似通ってしまうのですが、これも私の友人の話です。
いや、友人だったと言うべきでしょうか。

私は社会人になってから某アイドル事務所のとあるアイドルグループにハマり始めました。
ファンクラブにも入り、実際にライブにも行かせてもらいました。

そのグループが好きな人と繋がりたくて作ったSNSのアカウントではささやかながらフォロワーさんも増え始め、30人前後ですが毎日楽しくそのグループの話をしていました。

今回お話しするのは、その中のとあるフォロワーさんのことです。

名前は仮にTさんとします。

Tさんとは私がアカウントを作った当初から仲良くさせてもらっていて、私がハマる前の彼らの話や、ライブではこんなことがあったよ、なんて微笑ましいエピソードを聞かせてもらい、楽しく交流をしていました。

しかし、Tさんには少し困ったというか、行き過ぎた収集癖がありました。

とある雑誌の付録で、アイドルたちの詳細なプロフィールが書かれたカードがついてくるものがあり、自分の推しのものを何百、いや、何千枚と集めるのです。下手をすれば万を行く時すらありました。

収集癖を責めるわけではありませんし、自身の推しのカードですから収集するのは分かります。

事実、私も何人かのフォロワーさんと交換してこともあるわけですから。

ですが、Tさんの場合はその度が過ぎているというか、熱心を通り越して狂信すら感じてしまうほどでした。とはいえ、その時期以外のTさんは本当にいい人で、ライブや舞台も一緒に行ったことがあって、気遣いのできる人だったのです。

私がTさんから離れようと思ったきっかけは、別のフォロワーさんと通話をしていた時のことでした。このフォロワーさんの名前は仮にUさんとします。

UさんもTさんとほぼ同時期に繋がったフォロワーさんで、Tさんとも繋がっていました。
ある日、Uさんと通話をしているとTさんの話題になりました。

「ねぇ、Tさんとは大丈夫なの?」

唐突にこう聞かれ、「何の話ですか?」と聞き返すと、Uさんは何度か話すのをためらうかのように息を吐いていましたが、「何かあったらいけないし、話しておくね」と前置きをして、自身が体験した話をしてくれました。

私と通話をする数時間前、Uさん宛に少し前に発売された雑誌の付録としてついていたカード、Tさんの推しのものを譲ってもらえないかとDMが来たそうです。

それだけならいつものこと、とUさんも了承しようと思っていたそうなのですが、前回のカード譲渡の際に、「これで×000枚達成だ(この辺の数字は多少ぼかしています)」と呟いていたのが気になったのと、今回ばかりはUさん自身の推しとTさんの推しを並べて飾りたかったため断ることにし、「今回は残念だけど譲渡はできない」と返信をしました。

その直後、Tさんから通話アプリから電話があり、思わずUさんは出てしまったのです。
もしもし、という暇もなくTさんは電話口でまくし立てたそうです。

「ねえどうしてくれないのお願い私好きなのよ彼のことが大好きなの一枚だって他の女に渡したくないのお願いだから私に寄越せなあおい聞いてんのかよ何とか言えよ私に寄越せちょうだいねえねえねえねえねえねえ」

驚いたUさんは速攻で通話を切りましたが、なおもTさんからの着信はやまず通話アプリもSNSもブロックをしたとのことでした。

「Tさんは確かにいい人かもしれないけど、同担拒否が加速してる気がするの。離れるなら、今のうちに離れた方がいいと思う」

正直、Tさんとは直接何回か会って遊んだこともあってそんなことがあったなんて……と思ったのですが、Tさんはいわゆる同担拒否というやつで、自身の推しが好きな人が苦手という人でした。

私と繋がった当初からそうでしたが、私とTさんの推しは違ったので仲良くやれていたのです。

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