行き過ぎた受験戦争の成れの果て

そして、当然ながらそのカリキュラムは息子たちの人格を捻じ曲げました。
兄の方は多動っぽい挙動をしたり、突如大爆笑したりする程度で収まっていたのですが、弟の方は裏でカツアゲをするくらいにまでスレてしまっていました。
小学生にして1万円札や高価なゲーム機を、大人にバレないように慎重かつ狡猾に脅し取っていたというのですから開いた口が塞がりません。

おまけにその兄弟は2人揃って受験に失敗しました。
兄の方は滑り止めのS中学（それでもエリート校）に行き、弟の方はゲームやマンガにハマっていたせいか偏差値50ほどの無名私立に行ったようです。

そして、これがおぞましい悲劇の始まりとなりました。

まず弟は学校を休むようになり、そうして作った時間で悪い仲間と付き合うようになりました。
母親は「最終的には2人揃って東大に入る」という目標達成のためにあれこれとカリキュラムを立てていたので、これには言うまでもなく大激怒しましたが、弟は成長した身体にものを言わせ母親を包丁で脅し、恐ろしいカリキュラムから逃れていたようです。

一方兄は学校にこそ行っていましたが、オカルト好きの彼女と付き合うようになり、それが原因で勉強をほっぽり出して呪いやら心霊やらの研究をするようになりました。
無論これにも母親はキレましたが、兄は学年でもトップクラスの成績を母親に突き付け無理矢理黙らせました。

世の中頭が良い奴ほど得をするなら俺にもこれくらいの権利があると。

一方、弟は母親だけでなく兄のこういう態度も気に入りませんでした。
そして不良仲間と一緒に校門そばに張り込み、兄を集団リンチして半殺しにするという事件を起こしてしまいます。
登校中の、周囲に学生や教師がいる中でですよ？
結局は警察沙汰となり、弟は学校を辞めさせられました。

ところが、弟にとってそれはどうでも良いことでした。
そして淡々と「食事に農薬を入れて兄を毒殺し、その様子を母に見せて苦しめたところで母親を少しずつ刻んで殺す」という計画を実行に移しました。
しかしこれは兄が何らかの方法で事前に察知し、親戚の家に逃れることで失敗しました。

さすがにここまでくると母親もこたえたのか、自分と家庭を変えなければならないと決意しました。
そしてニューエイジ系と陰謀論系を足して2で割らなかったような怪しげな団体に入り、そこの怪しげなアイテムや食品で弟を治療しようとしました。

その結果、何があったかはよく分かりませんが弟は自殺しました。
兄と母親に対する恨み言を大量に書き連ねた遺書を残し、夜のうちに毒で死んだようです。

これを受けて、母親は満面の笑みを浮かべました。
サムシンググレート（この世の創造主的な何か？）がこの試練を授けてくださっているのだから、某有名高額納税者さんの言うように笑顔で弟を送らなければならないと。

一方、兄と父親は本気で安堵したようです。
不穏な要素はいなくなったと。
言い換えれば、この過程に家族の絆やら家族愛なんてものはありませんでした。
息子たちは母親のマリオネットで、父親はハードな労働のせいで物理的にも心理的にも家庭にはあまりいませんでした。
ですから、今度は周りの人たちは「兄の方が発狂するんじゃないか」と噂していました。

ところが、幸運にも現実は違いました。
兄は親戚の家から学校に通っていたこともあり母親の悪影響をある程度中和できていたためか、はたまた物理的にも母親の影響を受けづらかったためか、精神疾患を発症したものの発狂して廃人になったり死んだりということはありませんでした。