嘘と真実
投稿者:りばお (1)
俺が一人暮らしをしていたマンションは街中に在る学校まで自転車に乗って5分くらいの割と好立地な場所で、7階建ての6階に住んでいた。
間取りは何の変哲もない単身者向けの1K。家賃は相場より少し低いくらいで、築年数はそこそこ。けど、中はキッチリと床壁共に改装されていて、何なら家賃以上の質を感じる程に小綺麗な内装だった。
とはいえ、親からなんの仕送りも無い俺は家賃や生活費を稼ぐ為、家に居る時間よりもバイトで外に出ている時間の方が多かった。まぁ、反対を押し切って一人暮らしを始めたようなもんだし、仕方がない。
そんな週末のある日、俺は早朝からホテルレストランの朝食スタッフのバイトがあるので、いつもの如く午前6時には自宅を後にしていた。
職場までは自転車で15分程。限界まで寝ていたい派なので、朝のシフトは毎回ギリギリの出勤だった。
「……赤信号かよ」
自転車で走り出して直ぐ、俺は信号に捕まった。毎度の事とは言え今日は特に土壇場だった。けれど、こう言う日に限ってやたらと赤信号に捕まるんだよ。
交通量はさほど多くない。距離も5メートル程。こうなったら信号を無視して。と思った矢先、横断歩道を渡った先に在る電柱のふもとに花束が見えた。
「よし、やめとこう」
つい独白した。その花束は青々しくて、直ぐに俺の愚かな考えを払拭させた。少なくとも昨日今日と、近頃添えられた真新しいモノに見えたから。
何気なく周辺のアスファルトへ目を凝らしてみる。車の破片らしきものが転々と散らばっている。それは花束の真新しさを裏付けるように凄惨な残滓を漂わせていた。
恐らく俺が寝ていた昨晩の間に事故があったのかもしれない。添えられた花束を見ていると、こう言った「少しだけなら」の積み重ねが思わぬ事故を招く。そんなメッセージにも思えたんだ。
つまり、俺はバイトに遅刻した。
朝は昼休憩を挟んで17時まで。その後は18時から23時まで自宅近くのコンビニでアルバイトをする。それが俺の週末の過ごし方だった。生きる為に金を稼いでるはずが金を稼ぐ為に生きる気力を持ってかれるんだからあべこべだ。
「帰りも赤信号かよ」
そして、また俺は朝と同じ場所、つまり反対側の信号で捕まった。自宅は目前。早く帰りたい時に限ってやたらと赤信号に捕まる。
その時、俺はふと思い出したんだ。
自転車に跨ったまま隣の電柱のふもとへ目を向けると、そこに朝見たはずの花束は無かった。忽然と消えていた。
誰かが片付けたのだろう。別にこれと言って不審な事はない。だから、その時の俺は何も思わなかった。
自宅に戻り、夏の湿気と仕事でベタついた汗をシャワーで流す。明日は久しぶりの休み。だから俺はパソコンに電源を入れ、映画でも見ながらゆっくりすることにした。
……しばらくくつろいでいると、
突然、部屋の電気が消えた。
「……停電?」
不意に暗闇へ落ちた室内には、室外機の音とパソコンの中で回転するファンの音だけが静かに響いていた。ディスプレイから溢れる光が、急に暗転した俺の目の奥をチクリと差している。
「ブレーカーでも落ちたかな」
席を立つ。
その時、俺はある違和感を覚えたんだ。
「え、なんで………」
かなり面白かった!
もっと評価されてもいいような気がするけど