井戸端会議
投稿者:コオリノ (3)
そんな思いが頭の中を駆け巡っている時だった。
俺の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。
「ねえねえ、次……誰にする?」
瞬間、俺は入口から出る事無く、呆然とその場に立ち尽くし、口を魚のようにパクパクさせながら、力無くへなへなと座り込んでしまった。
以上が、俺が三年前に出張先で体験した話だ。
娘も今年で三歳になるが、あの場所には二度と戻りたくないと、今でも思っている。
実はあの後、心を病んでしまった俺は暫く会社を休んだ。
その時はまだ俺達はあのマンションに住んでいたのだ。
やがて落ち着いた頃に、久々の出勤となったある日の事、俺は決定的な話を、奴らから……あのママさん連中から聞いてしまった。
それが原因で、俺は逃げる様にして嫁を連れマンションを引っ越したのだ。
あのマンションに住んでいた最後の朝の日、奴らは言っていた。
いつもの場所、いつもの恰好、いつもの笑顔で。
「○○さんと○○さんの奥さん、一家心中だって、娘の○○ちゃんもよ、可哀想に」
「まあ嫌ねえ」
「本当に可哀想」
○○さんとは、俺の名前だった。
しかも娘の名前、当時はまだ生まれておらず、嫁は妊娠三ヶ月。
子供の名前は男の子だったら俺が、女の子だったら嫁が付ける予定だったため、互いに知らなかった。
なのに……なのに奴らはその名前すら言い当てていたのだ。
警察にも相談しようと思ったが、こんな話を信じてもらえる訳もなく、これは俺と嫁だけの秘密となった。
嫁は今でも一人で買い物に出かけられないという。
近所のママさん連中が井戸端会議に花を咲かせているのを見るだけで、あの時の恐怖が、全身を蝕むのだと……。
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