霊園で行く手を阻むのは・・・
投稿者:カヤ (7)
私が大学生の時の話です。
当時レストランでバイトをしていた私は、バイト先で仲良くなった男の子によく帰りに車で送ってもらうことがありました。
その日も閉店までバイトがありすっかり遅くなってしまったのですが、夏の気持ち良い夜風にあたりたくて、少しドライブをして帰ることにしました。
レストランに程近い丘の上に霊園があり、夜景が綺麗なことで有名なので、その霊園の前の広場でジュースでも飲もうということになりました。
広場に着いたのは午後10時を回った頃だと思います。広場の端に車をとめて降りると、私たちは自動販売機でジュースを買いました。
その時、何気なく友人が、『ここに俺の父さんいるんだよね』と霊園を眺めながら言いました。
彼のお父さんは早くに亡くなっていたとその時私は知りました。
そして「ちょっと中に入ってみようよ。』と彼はどんどん霊園の中には入っていきます。
私は中まで入る気はなかったので驚いて、「こんな夜更けに霊園の中歩くなんて危ないよ。やめようよ。」と止めたのですが、彼はどんどん中へ進んでいきます。
私は置いていかれるのが怖くて、彼を追いかけました。
あたりはところどころに外灯があり、きちんと整備された霊園なのですがやはり時間が時間なので薄気味悪いのです。
「怖くないのか」と彼に尋ねると、彼は「父さんがいてるから平気だ。」というのです。
しかし、やがて一番奥の斎場の建物と煙突が見えた時、私はどうにも怖さが我慢できなくなり、それ以上進めなくなりました。
斎場は真っ暗な中に白くぼんやり見えているのですが、とても近づける雰囲気ではなかったのです。
それにさっきまではさわやかな夜風が心地よかったのに、なんだか空気が澱んだようなじっとりとした息苦しさがありました。
「どこまで行くの。もう戻ろう」と声をかけても、彼はさらに斎場に近づこうとするので、
「いい加減にして!」と声をあげ、私は彼の腕を力づくで引っ張りました。
彼は、なんでだよ、と訝しげでしたが、私は構わずに腕を引っ張るように無理やり急足できた道を引き返しました。
そのうちに、最初は私にひきづられるようにして歩いていた彼もしっかり歩くようになり、やがて私よりも早足になるかのように、足早に歩き出しました。
さっきまでは「なんだよ、怖がりだなあ。」などと軽口を叩いていた彼が、真剣に歩き出したのです。
私はそれもまた不気味だったのですが、とにかく何か早くこの場を立ち去りたい意識に駆られ、二人とも無言で車の停めてある広場を目指しました。
やがて広場に着くと彼は何も言わずに車の運転席に乗り込みました。
私も、ようやく帰れると、慌てて助手席に乗り込みました。
広場の隅に停めてあった車は、発進する際、少しバックしてハンドルを切り、方向転換をして直進するはずでした。
彼がエンジンをかけ、アクセルを踏んだ瞬間ググッと車が揺れて止まりました。
「何?」と私が聞くと「動かない。」と彼が言いました。
エンジンもかかっているし、タイヤも動こうとしているのに、なぜかバックできないのです。
後ろに何かあるのかと思いましたが、私たちは車の後方から歩いて戻ってきたのです。特に後ろに動物なり障害物なり何かあれば必ずその時に見えているはずなのです。
それを思い出した私は「早く、早く」と彼を急かすことしかできませんでした。
彼も無言で真剣に車をバックさせようとアクセルを踏むのですが、どうしてもガクンと止まってしまいます。
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