奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

凍さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ヒデリ様の社
長編 2022/03/19 23:59 5,405view
0

中3の夏休み、母方の祖母が住む田舎に遊びに行きました。
僕んちは母子家庭で母は一日中働き詰めだったので、一足早く里帰りをしたのです。

「よくきたね、ゆっくりしていきな」

優しくて大好きな祖母のごちそうに舌鼓を打ち、会えない間の出来事を面白おかしく語っているうちに、あっというまに時間が過ぎていきました。

積もる話が一段落した頃合い、外から賑やかな祭囃子が聞こえてきました。村のお祭りと帰省の日が偶然重なったみたいです。これまでは日程がずれていたので、祖母が住む村で催されるお祭りに参加した経験は一度もありませんでした。

祖母曰く毎年お盆の時期に行われるお祭りで、村の若い子の中から三人の少年が選ばれ、山の上の社にお参りをするのだそうです。少年たちは一晩社にこもり、明け方になって漸く下山が許されました。

「何て神様が祀られてるの?」
「ヒデリ様じゃよ」
「ヒデリってあの日照り?飢饉の原因の?」

僕が笑うと祖母は神妙な面持ちでヒデリ様の由来を教えてくれました。今を遡ること三百年前……この村は大変貧しく、土地が瘦せていて稲や作物が育たなかったそうです。

そこへ記録的な日照りが続き、百姓たちは泣く泣く我が子を間引き、実の親を姥捨てせざるえなくなります。

民の困窮を見かねて立ち上がったのが旅の僧侶でした。

この地方の山を司るのは美しく恐ろしい女の神様とされており、何日も日照りが続くのは婿がいなくて干上がったからだ、男日照りの腹いせだと言われていたのです。百姓たちはたまったものじゃありません。

美形の僧侶は自ら山へ登り、てっぺんに社を編んで山神と契りました。すると久方ぶりの雨が降り、百姓たちは飢饉から救われたというのが、村に語り継がれる伝承の結末でした。

村人たちは僧侶への恩と日照りの恐ろしさを忘れない為に、毎年この時期になると村の若者を社に送り込むのだそうです。

「社で何するの?」
「静かに座禅を組んで僧侶を供養するんじゃ。誰でもできる簡単な事じゃ。ただし絶対寝てはならん、目を閉じたら付け込まれる」
「え?」

聞き間違いかと思って素っ頓狂な声を上げれば、祖母は気まずげに俯いてしまいました。
口調とは裏腹に多くを語りたがらない祖母に違和感を覚えましたが、あえて突っ込みません。ですが気になる事もありました。駅から畦道を通ってくる時に村人たちと挨拶したのですが、この村には若者が極端に少なかったのです。限界集落故過疎化が進み、殆ど年寄りになってしまったせいでしょうか。この村で産声を上げていたら僕だって卒業を待たず都会に飛び出していたかもしれません、それ位娯楽がないのです。

(一人でも倒れたら頭数が足りなくて大変だろうな)

この時、他人事としてぼんやり考えていたことが的中するとは思いませんでした。一時間ほどした頃でしょうか、祖母の家の引き戸が激しく叩かれて隣人が駆け込んできました。

「大変だ、社に送る坊主が倒れた!」
「なんじゃと!?」
「熱中症が原因だ。昼間走り回っとったからな、大事な体だというのに自覚が足りん奴め。それでアンタの所に孫が遊びにきてるのを思い出したんじゃ」
「あの子を代わりにさしだせと?」

何故か祖母が青ざめます。僕は即座に手を挙げました。

「いいですよ、山を登って社で一晩明かすんですよね」

正直な所村の伝統行事に好奇心をそそられていたので、この展開は願ってもないです。祖母は優しくて大好きですが、家にはゲーム機すらないせいで早くも暇を持て余し始めていたのです。

「そうかそうか、行ってくれるか」

1/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。