9月5日の電話
投稿者:ぴ (414)
私は毎年とある日になると、まるで「忘れないで」というように電話がかかってきます。誰からの電話なのかはもう分かっているのです。
しかし、私には取ることができません。そんな奇妙な取れない電話の話です。
まずはこの電話の相手である「彼」とは、私の婚約者でした。
優しくて、朗らかで、ちょっと寂しがりやな人だった彼とは大学で出会いました。
共通の少しオタクな趣味があり、その話ですごく気が合い、よく話すようになりました。
彼はIT業界で働くことを夢見ており、私によく夢の話をしてくれていました。
私は彼の夢を応援したかったし、それに彼の人柄の良さにも惹かれており、彼も私のことを好きだと言ってくれていました。
その頃からお付き合いをして、学校卒業と共にお互いの両親を紹介しあい、婚約することになりました。
すぐに結婚したかった気持ちはありました。
でも私は彼の夢を応援したくて、彼の夢が形になるまでは待っていることに決めたのです。
それから月日が流れ、彼の仕事がやっと軌道に乗り始めた頃に、私たちはとあるレストランで会う約束をしました。
しかしレストランでいくら待っても彼はやってきません。
私は約束をすっぽかされたことに少し腹が立っていたのですが、その後突然の一本の電話で彼の死を知らされたときは信じられなかったです。
死因は交通事故でした。
病院まで向かったときにはもうすでに彼は息を引き取った後で、私は悲しみに暮れました。
彼のお母さんと一緒に目が腫れてしまうまで、わんわんと泣きはらしたのです。
このことがあってから、私はしばらく立ち直れませんでした。
それほど彼のことを好きだったし、失くしてしまうことなんて考えもしなかったからです。
さらに彼はその日私にプロポーズするつもりでいたと聞かされたときは、悲しくて悲しくて涙が取まらなかったです。
待ち合わせが、いつもと違うお洒落なレストランで少しその期待はありました。
だからすっぽかされて腹が立ったのです。あの交通事故さえなかったらと何度思ったか分かりません。
そしてこの彼の死から、毎年奇妙な電話が鳴るようになりました。
それは彼が亡くなった9月5日にかかってくるのです。
1年目のときは私は家を留守にしており、電話に出ることができませんでした。
知らない番号が留守電に入っていて再生ボタンを押したけれどずっと無言で、誰からか分かりませんでした。
2年目は家にいたのですが、丁度用事をしており、すぐに出ることができませんでした。
出る前に電話は切れてしまって、また誰か分かりませんでした。
3年目は近くにいたのですぐに出ようとしたのです。
それなのに、私が出たらまるで見計らったかのようにすぐにガチャっと切れてしまい、また電話を取ることができませんでした。
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