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呪い・祟り

タカラヤさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

『子ども川』の水晶石
長編 2022/03/18 21:15 4,519view

 私の住む地域には、古くから、それこそ子どもの頃から言い聞かされている決まりごとがあります。
 それは、『子ども川の石を、割ったり、蔑ろにしてはならない、家に持ち帰ったりしてはならない』というもの。

 子ども川というのは地域にある主流から別れた小川で、平時は地元の人も釣りをしたり、冬は鶴なども飛来する綺麗な清流。何も知らない人が見れば、とてものどかな時間が流れている素敵な場所です。
 ……そんな川である石を拾ったことから、幼い私は恐ろしい体験をしたのです。

 小学生の頃、親の都合でこの地域に引っ越してきた私は、周囲に馴染めず友達もできず、孤独な子ども時代を過ごしていました。
 そんな私の唯一と言っていい趣味が、鉱石採取でした。石を拾ってきては箱に詰め、これは何月何日の、どこで取ってきた石なのかを書いて記録したり、これは溶岩石、これはチャート、これは砂岩れき岩と、子どもなりに分類分けして保管するのが大好きだったのです。
 遊ぶ友達もいなかった私は、放課後は石拾いに精を出していました。公園に行き山に行き、周辺を調べ尽くした私は、家の近くにあった子ども川に足を運ぶことにしました。
 ……引っ越してきた『よそ者』である私は、決まりごとなど何も知らなかったのです。
 
 川には角が取れた丸い石が沢山あって、色とりどりだったそれを夢中で拾い集めました。
 家に帰って仕分けをしているとき、見慣れない石があることに気がつきました。丸くて、少し黒っぽい半透明の石。初めて見るもので、しかも光を当てるとぼんやりと透けるのです。

 調べるため、石の縁を少しハンマーとノミで削ってみると、ガラスのような質感の欠片がぽろぽろこぼれます。
 間違いありませんでした、私は興奮して一人叫びました。「水晶だ!」と。
 自然採集では滅多にお目にかかることのできない、貴重な鉱物です。
 私は嬉しくてたまらなくなり、次の日から毎日のように子ども川へ向かうようになりました。

 行くたびに、私のコレクションに水晶は増えていきました。
 黒水晶、灰色水晶といった透明性の低いものが主でしたが、それでも、宝石が手に入る喜びと言ったらたまりません。
 次第に自室は、子ども川から取ってきた水晶でいっぱいになっていきました。
 ある時私は、「水晶を割って磨いて、家族へのプレゼントにしよう!」と思いつきました。
 考えたら即実行する子どもだったので、自室の学習机に布を敷き、ハンマーとノミを水晶に突き立てました。あっさりと水晶は割れ、ガラスのような、濡れたような質感を断面に見せてくれました。
 その美しさに息を飲んだことを覚えています。
 わたしは夢中になって、今まで集めてきたものをためらいなく割っていきました。机の上は水晶の砕けた欠片でいっぱいに。

 私はうっとりと眺めますが、ふと、水晶の中に何かが埋まっていることに気が付きました。
 白いそれを指でほじくってみると、簡単にパラパラと崩れてしまいます。指でこすり合わせて感触を確かめてみれば、固まった砂のような、お皿の欠片のような妙な感じです。
 『白いなにか』が埋まっている水晶は沢山ありました。「プレゼントの見た目を損ねる」と考えた私は、白いものを全部指で取り、ゴミ箱に捨ててしまいました。

 次の日も、私は子ども川に向かいました。私の頭の中はもう、あの魅惑的な宝石のことでいっぱいだったのです。
 水晶は行くたびに取れましたが、気に食わないことが一つありました。それは、日を追うごとに水晶の中の白い内容物が増えていたことです。
 私は機嫌を損ね、イライラしながら割って、内容物をほじくり出していました。
 
 そんな毎日を重ねていたある日のこと、私は川辺で再び水晶を見つけました。
 でも、最近見つける水晶は、白い内容物だらけのものが多かったので、その場で割って中身を確かめてみることにしました。河原で石を割るなんて、あたりに飛び散る危険性のあるとてもいけないことなのですが、当時の私はなにかに取り憑かれたかのような、考えなしの子どもでした。
 ハンマーもノミも持ってきていませんでしたから、石同士をぶつかり合わせて、ガチャンと割ってしまいました。すると……中に、大きな白い内容物が入っていました。明らかに人の骨を思わせるような形状で。
 私は悲鳴を上げましたが、中身を確認したいと強く思い、まじまじと見てみました。
 それは小さな……子供の腕か足の骨。触るとすぐに壊れてしまうほど傷んでいました。まるでそう、焼かれた骨のような。

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