呪いを解き放ったかもしれない
投稿者:煙巻 (8)
俺が踵を返した直後、ガリガリ、と何か削るような音が鳴る。
恐る恐る音の鳴った方、牢屋へ振り向くと、闇の奥からガリガリと引き続き鳴っている。
何かが居る。
確実にそこに何かが居ると確信を得た俺は、反射的に足を動かし、この暗がりの中を走り出す。
途中転げながらも必死にただ前に進むために闇の中へ足を踏み込んでいく。
なるべく前方へ手を伸ばし、何かに縋るように前へ前へと歩を進め、漸く和室へ上がる階段らしき木目調の質感を指の腹でなでる。
早く、急がなくちゃ。
逸る思いで凸凹した階段を赤ん坊のようにして上り、何も見えないせいで木蓋に額を盛大にぶつけて一瞬よろめくが、何とか踏ん張り、両手を使って力いっぱいに押し上げる。
ガコッと、すんなり持ちあがった事に拍子抜けしたが、地下よりも眩い月明かりを肉眼でとらえ、安堵と共に身を乗り出した。
数分ぶりの地上の空気は地下に比べ乾燥していて肌寒く思えたが、すぐに意識を切り替えて木蓋をして、その上に畳を戻す。
これで例え地下の牢屋に誰かが居たとしても上がってこれないはずだ。
手のついた泥を払い、俺は離れを後にした。
居間に戻ると父は既に泥酔状態で机上に突っ伏していて、祖父は随分物静かながら座椅子に寄り掛かり未だ酒を嗜んで虚ろな目でテレビを眺めていた。
母と祖母は片付けが終わっているようだが何やら会話を弾ませながら台所で支度をしていて、ひょっこり覗いてみれば御節の下準備だった。
やる事もないのでコタツに入ろうとしたら祖父に呼び止められた。
「……お前、それどしたね」
「え?」
祖父が指差すのは俺の手だった。
小指球の辺りに赤黒い泥の跡が残っていて、俺は思わずぎょっと表情を固めたが、祖父は尚も酒を含みながら訊ねてくる。
「なんかあったか?」
「……何も」
咄嗟に嘘をついて息を呑んだものだが、祖父は黙って目を逸らし「そうか」と相槌するだけだった。
俺はコタツに入る前に台所で手を洗ってその日はコタツに入って寝入った。
翌日になると、すっかり頭も冴えていて、清々しい新年の朝を迎えられて昨夜の事は夢だったのではと、既に記憶の中から落ちかけていたと思う。
自前の御節料理を食べ、家族でゲームなんかして、時には持ってきた宿題を祖母に見てもらい、団欒とした一日を送っていた。
その平和な日常は夕刻の一報で崩れ去る。
祖父の知人が亡くなったと訃報が舞い込んだ。
なんでもここらの地主として古くから存続している家門の出らしく、この母屋もその知人から安く購入したという。
その祖父の知人が早朝喉を引っ掻くように苦しんで亡くなった。
訃報を受けた祖父が居間で俺達家族の前で電話を受けていたから、話の内容で俺は知ったんだけど、父がすぐに顔色を変えて俺を今から追い出したので、それ以上の事は知り得ない。
面白かった
もっと評価されてもいいと思う
面白かったし怖かったしオチも最高だったけど、なかなか読みにくい文章だった。
それすらもそれも不気味さを演出していたけど
構成も文章もしっかりしているし、話自体も、時系列にそって流れているため分かりやすく読みやすかったです。結局、呪いは解き放たれたのか、祖父の代をもって終了したのかわからぬまま結んでいる点で、逆に不気味さと呪いの連鎖への不安や怖れを暗示しているように感じましたが。
うむむむむむむむ…
時代背景がよく分からんかった(´・ω・`)
戦後って第二次世界大戦?戊辰戦争とかなら時代背景想像出来るんだけど