踊り場の鏡に吸い込まれて

私が中学生時代に体験した話です。

当時通っていた市立中学校の階段の踊り場には古い鏡があり、生徒たちはなんとなく避けていました。
それというのも不気味な影がチラ付く、放課後に前にたたずむと鏡面がぐにゃりと歪んで吸い込まれるなど、オカルトな噂が絶えなかったからです。

怖い話が大好きだった私は、噂の真偽を確かめようと放課後居残り、踊り場の鏡の前に向かいました。

「なんてことないフツーの鏡だよね……ボロいけど。あ、誰か蹴ったな？上履きの跡が残ってる」

鏡の下方に上履きの跡がくっきり付いてるのを目にとめ、出来心で片足を重ねてみました。

次の瞬間、上履きの底が鏡に吸い付きました。

「えっ？」

困惑する私をよそに上履きはずぶずぶ沈んでいきます。鏡面は波立っていました。

ヤバいと思って飛びのくや上履きがすっぽぬけ、勢い余って尻餅を付きました。

「嘘……！」

私が転ぶと同時に鏡の異変もおさまり、上履きは踊り場に落ちました。転ぶ間際、鏡の奥に黒い影が逃げていくのを見ました。

後日この体験を皆に話しましたが、全く信じてもらえません。

もし上履きが脱げなければ今頃どうなっていたことか、想像するのも恐ろしいです。